1972年夏、コインロッカーに別々に捨てられた赤ン坊、キクとハシ。
二人は同じ里親に引き取られ仲の良い双子の兄と弟になります。
佐世保の映画館に住むガゼルに聞いたおまじないの言葉はダチュラ。
ハシは白い子犬ミルクを飼っています。
キクとハシ15の夏。
社長令嬢のアネモネ17歳は中二の時からCMモデルをしています。6年間鰐のガリバーを飼っています。
ハシは母親を捜しに行くと言って家出します。
キクは走るのが速く、棒高跳びをやっていて、鉄条網を跳んで、アネモネに出逢います。
ハシはミスターDという男色のスポンサーの手によって歌手になっていました。
ハシの最初の女性は38歳のニヴァ。
そして、キクはハシを捜しに行き再会。
ハシはミスターDの策略によって産みの母親と再会することになりますが…。
10代の頃に一度読もうとして挫折した作品だったのですが、今読んでみると、
「何これ!凄く面白い!!!」と思いました。
物語全体が爆走しているように感じられました。
全然古くない、むしろ新しいと思いました。
近未来小説だと言われても信じたでしょう。
下品な言葉もたくさん飛び交いますが、不思議と汚い感じがしなくて詩情が感じられました。
村上龍はやっぱり天才だと思いました。
キクが母親のことを思い出しながら走るシーンは感動的でした。
印象的だったシーンとモノローグ
ーあの女は、間違いなく俺の母親だ、俺を産んで夏の箱に捨て、俺の力を奪い、肉の塊り、閉じられてヌルヌルした赤いゴムの袋になって俺に教えようとした。俺が一人になっても生きていけるすべてを一瞬のうちに教えようとした。あの時周囲の視線に屈せず、俺だけのために立ち上がり、俺の傍に寄って、俺だけに呟いた。俺はあの女を尊敬する。立派な母親だ。
ー僕を支えているのはあの音だ。柔かい部屋でキクと一緒に聞かされたあの音だ。あの音を捜したくて歌っている。
ー「ダチュラ!」
アネモネは嬉しそうに赤い傘を大きく振って応えた。
ーアネモネは、キクの情婦ですと自己紹介した。
ー僕はただみんなから好かれたいんだ。ハシと一緒だと心の底から幸福になると言われたいんだ。それだけなんだ。それなのに僕は捨てられた。コインロッカーに捨てられて以来、僕は何が欲しかったのだろうか。何かが欲しかった。何かに飢えていた。
以上前半三分の二はすごく面白くて引き込まれました。
でも物語には結末が必要だったのですね。
この結末は前半に比べるとパワーが落ちていて何だか好きになれなかったけれど、作者が下した結末なんですね。
1981年野間文芸新人賞受賞作。
- 感想投稿日 : 2022年2月28日
- 読了日 : 2022年2月28日
- 本棚登録日 : 2022年2月28日
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