茨木のり子さんの詩集は、以前にも何冊か読んでいますが、この詩集の高橋順子さんの解説によると、意味を取り違えて読んでいたものがありました。この「永遠の詩」シリーズは解説が1作ごとにあり、とてもわかりやすく、選詩も、選りすぐりのものばかりで、評価されるべきシリーズだと思います。
「落ちこぼれ」
落ちこぼれ
和菓子の名につけたいようなやさしさ
落ちこぼれ
いまは自嘲や出来そこない謂
落ちこぼれないための
ばかばかしくも切ない修業
落ちこぼれにこそ
魅力も風合いも薫るのに
落ちこぼれの実
いっぱい包容できるのが豊かな大地
それならお前が落ちこぼれろ
はい 女としてはとっくに落ちこぼれ
落ちこぼれずに旨げに成って
むざむざ食われてなるものか
落ちこぼれ
結果でなく
落ちこぼれ
華々しい意志であれ
<解説より>
この国では、目立たないように身を処していないと、後ろ指を指されて生きにくいことになる。それゆえ、出足ががにぶい人、遠回りしている人には「落ちこぼれ」という美しくも、ありがたくないレッテルが貼られる。いまこの国の大地は、落ちこぼれの葉っぱを収容すべき弾力を失っているように、筆者には見える。この詩を書いたころの茨木は、みなさん、意志的に落ちこぼれようではりませんか、と檄をとばしていたのだが…。
さて、『作家のおやつ』(平凡社コロナブックス所収・2009年)によると、茨木が好きだった和菓子は名古屋の養老軒の白と黒の外郎。山形県鶴岡の栃餅だったそうだ。『寸志』所収。
「ぎらりと光るダイヤのような日」「わたしが一番きれいだったとき」「小さな娘が思ったこと」「一人は賑やか」「兄弟」「食卓に珈琲の匂い流れ」「恋唄」「(存在)」「歳月」もよかったです。
茨木のり子(いばらぎのりこ)
1926年(大正15)~2006年(平成18)。
敗戦後、結婚前後から詩を書き始め、川﨑洋とともに詩の同人誌「櫂」を創刊。
ヒューマニズムと批判精神溢れる詩で多くの読者の心を鼓舞した。
戦後を代表する女性詩人にして、エッセイスト、童話作家でもあった。
- 感想投稿日 : 2019年9月2日
- 読了日 : 2019年9月2日
- 本棚登録日 : 2019年6月17日
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