星のように離れて雨のように散った

著者 :
  • 文藝春秋 (2021年7月28日発売)
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島本理生さんには以前小説の講座を受講する機会に恵まれ、その時に予習として初期の作品はほとんど全部拝読してから受講したのですが(『ファーストラヴ』あたりまで読みました)それ以後ご無沙汰で、この作品は、宮沢賢治に関係した作品だと知ったので読みたくなりました。

キャッチコピーは「父の失踪、書きかけの小説、『銀河鉄道の夜』。」ーあの夏、三つの未完の物語が「私」を突き動かしたーだったのですが、賢治に関わるミステリーを期待して読んだのですが、かなり期待とは違う、宮沢賢治はほのかに香るくらいの作品でした。

とても淡い感じのする物語で、日本文学を学ぶ大学院生の主人公春のさわやかな成長物語だと思いました。

春は恋人の三歳年上の亜紀くんに結婚しようと言われ悩みます。
小説家の吉沢さんのところでアルバイトを始め、父と同年代の吉沢さんに失踪した父のことを聞いてもらいます。春の父はなぜか母や春ではなく自分の妹宛ての手紙一本だけ残し失踪してしまったのです。
吉沢さんは春に的確な助言を与えてくれます。
でも、吉沢さんももうすぐ引っ越ししてお別れです。
春はこれからは自分で歩いていこうと思います。
そして亜紀くんとの出会いを振り返る春。

作者あとがきによりますと、本作の執筆中、島本さんはなぜか十代の頃に書いた『生まれる森』という小説のことを思い返していたそうです。あの頃に迷い込んだ森とは、なんだったのか。
確かに私もこの作品は島本さんの初期の作品に近いと思いました。
当時、書かれた詩だそうです。


君が痛いと泣いた
森には雪が降っていた
私は捨てた
かかとから、あふれ出した血が眠るうさぎの耳を染める
遠いたびの終わりには
ただ
身を寄せ合い
からまる夜をほどいて
この森を出ていく
わたしたちはこの深い場所で生まれ
いつか
抜け出すことができるだろう

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年8月2日
読了日 : 2021年8月2日
本棚登録日 : 2021年7月22日

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