奥田亜希子さんの新刊に飛びつく。
ややネタバレ含むので、注意。
小学生時代から、章を追う毎に大人になってゆく愛衣は、他人が嘘をつくと、匂いで分かってしまう不思議な感覚を持っている。
そして、そんな感覚があるからこそ、友達という関係性に怯えてしまう。
小学生の愛衣が、憧れの女の子に合わせるために、嘘をついて、自ら匂いを発してしまうシーンは、読んでいて本当に辛くなった。
結局、その女の子には嘘がばれてしまい、そんな子とは友達になれない、とハッキリ断られてしまう。
愛衣のこの体験は、中学生になっても尾を引く。
でも、愛衣がしたことは、すごくよく分かる。
この頃、誰かと一緒にいるという事実は、とても貴重な意味を持っていたように思う。
今なら、そっと距離を置いたり、はたまた表面的に付き合っていけただろうという友達も、当時は従って離れないようにするしかない存在だった。
それは、クラスとか近所っていう、狭いコミュニティしか知らない頃だったからかもしれない。
同じクラスの数十人、家が近い数人、その中で確実な友達を見つけるなんて、今思えば無謀だよなー。
高校、大学になって愛衣の領域は広がっていく。
と同時にこの作品の年代設定も、ケータイの登場、ブログの普及、スマトラ沖大震災、ポケモンGOと平成の初めから終わりに向けて進んでいく。
母親になった愛衣が、娘に対して、友達について言葉にするラストシーンは、中学の時から随分成長していて、すごく良い。
友達になることばかり、慎重に試みてきた彼女が、友達であることに目を向けたんだなと思う。
レビューにすると、ストーリーを追ってしまっただけのように思うのだけど、描写がすごく上手い。
読んでいて、誰かとのズレを感じたときの、ザラっとした感じとか。ひゅうと温度が下がる感じとか。そういう、自分が味わってきた、あの距離感を、すごく的確に表している。
「テスト用紙のドッグイア」なんて秀逸な章タイトル、忘れられないわー。
- 感想投稿日 : 2021年7月18日
- 読了日 : 2021年7月18日
- 本棚登録日 : 2021年7月18日
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