あすなろ物語 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1958年12月2日発売)
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感想 : 176
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作者の自伝小説『しろばんば』を読んでいると、これも自伝小説でその続きなのかと思いがちですが、著者のいくつかの実体験を活かした創作です(『しろばんば』に連なる続編は『夏草冬濤』『北の海』)。

タイトルの「あすなろ」は、あすは檜になろうと思いつつ、永久に檜になることが出来ない。それで「翌檜(あすなろ)」という名が付けられた、檜に似た木をモチーフにしています。

この物語は、主人公の少年期〜青年期〜働き盛りの壮年期までの人生を、戦前から戦後にかけて6部構成で描いています。そして、会話の中で「あすなろ」にちなみ、檜になれた人、なれなかった人を論じていますが、印象的なのが、3部目の「貴方は何になろうとも思っていらっしゃらない」と主人公が揶揄されるところ。翌檜でさえ目標があるのにと言わんばかりの発言を、憧れの女性から面と向かって言われているのに、まったく堪えていない。夢中だったと言えばそれまでですが、次の4部で、そのホの字の憑き物が落ちたのは、ある意味転機と言えるでしょう。5部では意図せずにライバルの転機に加担してたりして、人の運命の転機は意外なところにあるものだと思いました。

ラストの6部では、明日は檜になろうとする、終戦から必死に立ち直ろうとする人々の力強さを感じる印象的なエンディングでした。ここで、あえて主人公が檜になれたか言及していませんが、当人が気付いていないだけで、立派な檜だと自分は思うのですが、これを読んだ他の人はいかに?

ところで、6部構成のそれぞれに女性が登場し、その誰もが個性的ですが、「春の狐火」の清香の話しが幻想的でとても良かったです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月11日
読了日 : 2024年2月10日
本棚登録日 : 2024年2月8日

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