毒を食らわば (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (1995年11月10日発売)
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本棚登録 : 217
感想 : 33
4

ドロシー・L・セイヤーズの貴族探偵ピーター・ウィムジイ卿シリーズ長編第5弾です。
そして、ピーター卿の未来の花嫁ハリエット・ヴェイン初登場!

今回は、法廷で傍聴中に突然被告席の女流推理作家ハリエットに恋をし、かつ無実を確信したピーター卿が、あまりにも状況証拠が揃い過ぎている被告を救うべく調査に乗り出すというお題です。
しかしながら、まあ確かに状況証拠は揃い過ぎているものの、実は真犯人はあいつだと意外とすぐに目星はつくようにはなってはいますね。何といっても主要な関係者はあの人くらいなものですから・・・。(笑)
また、推理過程の論理展開も論旨の逆転構造が少なからずあったような気もします。
ということでミステリーよりもむしろ、まずはピーター卿の恋の相手であるハリエットが被告人として初登場するというところに面白味があった作品なのかと思います。
特に美人でもないが、知的でバイタリティ溢れ、我を通す頑固者で、結婚よりも同棲を望む「いまどき」の女性として描かれています。
こうしてみると、とてつもなく鮮烈な初登場なのですが、このような登場のさせ方はある意味セイヤーズのお得意の構想であり、今後のシリーズの流れとしての物語展開を大切にするセイヤーズの面目躍如たる本編だったように思います。
ただ、このような女性にピーター卿が惚れたという流れなのですが、う~む、せめて美人の設定にしてほしかったなあ。(笑)
そして、ピーター卿の家族、とりわけ妹のレディ・メアリと親友のパーカー主任警部との恋物語といい、物語後半のピーター卿配下のおばちゃん探偵団(!)の活躍といい、全く本編は様々な力強い女性像を提示したピーター卿「ファミリー」の物語だったともいえます。
特に少年探偵団もどきのおばちゃん探偵団の活躍ぶりは、「名探偵」が乗り移ったと見紛うばかりの閃きと活動ぶりであり、スピンオフ作品が作れたのでは?と思えるほどに完璧な冒険譚でした。ほんとピーター卿、いらなくない?(笑)
そんなわけであまり謎解きの方は重要視されていない作品という感じもあり、解決編の方は何かやっつけ感があるというか、後半は冒頭の緊張感のある法廷場面に比してスリリングな進行ではあるものの、推理物としては竜頭蛇尾感があって、まあやっぱり「ファミリー」を楽しむ回だったのではないですかね。(笑)
しかし、これはこれでますます今後の「ファミリー」の展開に目が離せなくなりました。さらなる展開に期待しましょう。

ところで本シリーズでは文章中にたまに訳者の注記が入ったりしているのですが、特に気になるのはセイヤーズ自身?の誤植です。こんな初歩的な辻褄の合わない誤りをするものなのかと驚きですが、誰も校正してあげていなかったのかなあ・・・。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 推理小説、ミステリー
感想投稿日 : 2017年1月30日
読了日 : 2017年1月29日
本棚登録日 : 2010年1月3日

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