負けて強くなる ~通算1100敗から学んだ直感精読の心得 (宝島社新書)

著者 :
  • 宝島社 (2014年4月10日発売)
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感想 : 11
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「神武以来の大天才」といわれた著者半生の自伝です。棋界きっての奇人にして数々の奇人伝説を持ちながら(笑)、その愛嬌ある風貌と語り口から「ひふみん」「パウロ先生」「一(ぴん)ちゃん」などの愛称で親しまれています。そうしたひふみんなので、本書でも奇人の独自観が披露されているものと思いきや、想像に反してなかなかどうして真面目な回想録でしたね。(笑)ひゃー!
天才達が集い、盤と駒を駆使した勝負がくり広げられる棋界において、「天才」と謳われ、名人位をはじめいくつものタイトルを保持した実績を持つひふみんですが、さらに上をゆく大山康晴十五世永世名人や中原誠十六世永世名人をはじめとした勝負では挫折も味わい、スランプにも陥り、そしてそこから何度も這い上がってきた棋士人生だったとのことです。本書は通算1100敗目、棋士生活60周年を記念して書かれたとのことですが、1100敗の反対には1300勝があり、ひふみんの棋界での活躍ぶりがわかろうというものです。
本書は「負けて強くなる」という題ですが、やはり負けるのは大の嫌いとのことで(笑)、そのあたりは流石に勝負師ともいえますが、本書ではその負けた後の次回ということを強調しています。すなわち「負けを次回の糧とする」「負けを引きずらない」ということで、まあ当たり前のことなんですが、ひふみんの勝負の中から実例を挙げた解説が興味深かったです。
しかし一方で力説されていたのが、「乾坤一擲の勝負には勇気を持って踏み込む大胆さが必要」「最初のチャンスこそが千載一遇のチャンスだという気概が必要」「敗勢であっても最善を尽くしていれば勝機のチャンスもあり得る」「直感を信じそれを熟考してから指す」ということで、ひふみんの勝負への並々ならぬこだわりも感じさせられます。
また、ひふみんのカトリック信仰は有名で、本書でもその真摯な態度が窺いしれ、ひふみんなりの誠実な人柄が温かく伝わってきました。
大山康晴や升田幸三の高い壁に立ち向かい、中原誠や米長邦雄といった天才ライバルたちと戦い抜き、そして、谷川浩司や羽生善治といった天才後輩たちともなお戦い続けるひふみんの対局の回想もなかなか面白かったです。
74歳にして現役60年を迎えた現在もなお何かと話題をふりまき、さらなる勝利にこだわり続けるひふみんの今後の活躍を期待します。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2014年7月7日
読了日 : 2014年7月6日
本棚登録日 : 2014年6月30日

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