「片説家」という、依頼を受けて個人に向けて文章を書く、小説家とは似て非なる職業が存在する世界で、片説家をクビになった主人公が小説家を目指す物語。
「片説家」という世界観がリアルで面白かったです。
小説には、日々の生活の精神的な支えになってくれる要素が少なからずあると思います。要は、簡易のカウンセリングみたいなもので、僕らは薬局で風邪薬を買うような感覚で、本屋で小説を買っていると喩えることができるはず。
では、選ぶべき薬が分からない場合、あるいは重症の場合はどうするのかとなると、医者に見せようということになります。おそらくは単にいい薬を薦めてくれるだけでなく、より自分に合うようアレンジして処方してくれるはずで、それがまさしくこの「片説家」。そんな職業が実在しても全くおかしくないなと思います。
ただ、内容自体はリアルに攻めるというわけではなく、「言語」と呼ばれる能力があったり、「地下図書館」と呼ばれる収容施設があったりと、ファンタジー色が色濃く書いてあるのが、個人的には残念。最後まで無駄にリアルに抑えつけて書いて欲しかったです。ファンタジックな世界観を押すなら、もっとライトノベルらしく書いてしまった方が燃えて良かったような気がします。
書き口が不躾というか、ヒネているという印象なので好き嫌いが分かれるかもしれません。
小説に限らず、創作的な活動を趣味として持っている人にとっては、共感できること、異論を唱えたくなることなどが数多く詰まっていて、等身大で楽しめる作品だと思います。
- 感想投稿日 : 2010年9月15日
- 読了日 : 2010年9月3日
- 本棚登録日 : 2010年6月17日
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