ボタニカル・ライフ-植物生活 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2004年2月28日発売)
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本棚登録 : 990
感想 : 105
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カレル・チャペックの『園芸家12カ月』を読んだ時と同じ気持ちで、大きく何度も頷いたり、あるあるに声を出して笑ったりしながら読みました。
ただの「あるある」だけではなくて、そのキレのよい文章と、的確でいて他の人は思いつかないような比喩が本当に面白い。
土が肥えるかもと思いながら、でも一方では土を買うのが面倒で、枯らした植物たちが植っていた土を大鉢に貯めて「死者の土」と呼ぶ。
アパートのゴミ捨て場で見つけたオンシジウムを、容れ物の鉢欲しさに拾ってきて「捨て子」と呼び、でも結局育てて数年後、世話を疎かにしていたにもかかわらず咲いたその「捨て子」の花を更に蝶に喩えて、「蝶の恩返し」として語る。
かと思えば、メダカのために買ってきた水草にくっついていたと思われるヤゴを「ヤゴロク」と名付けて育て、羽化した弱々しいヤゴロクが飛ぶことなく死んでしまった話では、
「飛んでいるトンボを見ながら、飛ぶことのなかったトンボを思うこと。それはしっかりした観察さえあれば、それこそ“自然”に導き得る感覚なのだった。ヤゴロクの美しい死骸は俺にそのことを教えてくれたのである」-382ページ
と、こちらがハッとするような洞察を語る。その振れ幅もいいのです。

草花を育てる人は間違いなく面白く読めるでしょう。そうでない人にも、このテンポのいい文章は楽しいと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2021年1月17日
読了日 : 2021年1月17日
本棚登録日 : 2021年1月17日

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