老子
無知無欲のすすめ
著:金谷 治
紙版
講談社学術文庫 1278
関西将棋会館の対局室に掲げられる四永世名人の掛け軸が、老子からのものだと知って不思議な思いがした。
人法地 地法天 天法道 道法自然 (25章)
人は地にのっとり、地は、天にのっとり、天は、道にのっとり、道は自然にのっとる
天法道 十四世名人 木村義雄
地法天 十五世名人 大山康晴
人法地 十六世名人 中原誠
道法自然 十七世名人 谷川浩司
本書では、25章は、万物の根本であり始源である「道」を説く章 とある
将棋というものを、道としてとらえているのか、将棋の無限の変化を、混沌とした世界ととたえているのか、
老子にも、将棋にも、くわしくない自分ではわからない。
とにかく、老子というものに興味をもったのが、この、関西将棋会館のエピソードがきっかけであった。
■儒家と道家
儒教は孔子:論語+孟子で、王者の学問、国家という人工物を扱う思想
道教は老聃(ろうたん):老子+荘子(そうじ)で世捨て人の学問、自然に帰れという思想
儒教という堅苦しく表向きに正統的な思想であるに対して、老荘の思想は、その裏面を支えるものであったという
老子を貫くものは、道、自然無為、そして、水のたとえである。
論語などと比べると、リズムがよい。韻を踏んだり、上記、天法道のような流れる表現。そして、老子には、皮肉にも、逆接的な表現が多いのである。
老子道徳経というが、道徳を説いたものではない、上下に分かれていて 上篇の初めに道を解説、下篇の初めに徳の解説があるのでそうよばれているのである
作者、老聃(ろうたん)にしても、孔子ほどにはわかっていない。手がかりは、司馬遷の史記にある、「老子伝」である。
史記が、「老子伝」を書くころには、伝承はあいまいになっていたようで、すでにいくつかの伝承があるようである。
気になったのは、以下です。
■上篇
1 道の道とすべきは、常の道に非ず
これこそが、理想的な道だといって人に示すことのできるような道は、一定不変の真実の道ではない
(いきなり、冒頭から逆説で始まる。儒教の説く道は、道ではないといっているのである、これが道教といわれるゆえんである)
3 賢を尚(たっと)ばざれば、民をして争わざらしむ
為政者が才能すぐれたものをとくに尊重するということをやめれば、人民が競争に熱をあげたりはしなくなる
(理想の政治)
5 天地は仁ならず
天地の造化のはたらきは、塵埃の徳があるわけではない
(非情は、自然無心なはたらきである)
7 天は長く地は久し
天は永遠であり、地は久遠である
(天長地久:天皇の誕生日は天長節、皇后の誕生日は地久節といった。皇室にも、老子が及んでいる)
8 上善は水のごとし
最高のまことの善とは、水のはたらきのようなものである
(老子では、水のたとえが多い)
18 大道廃(すたれて)仁義有り
すぐれた真実の道が衰えて、そこで仁愛と正義を徳として強調することが始まった
23 曲なれば即ち全(まった)し
曲がりくねった樹のように役たたずでいれば、身を全うできる
32 道は常に無名なり
真実の道は本来いつも無名であり、名としては表せないものである
33 人を知る者は智なり、自ら知る者は明なり、人に勝つ者は力有り、自ら勝つ者は、強し
他人のことがよくわかるのは知恵のはたらきであるが、自分で自分のことがよくわかるおは、さらにすぐれた明智である
他人に打ち勝つのは力があるからだが、自分に自分で打ち勝つのは、ほんとうの強さである
■下篇
45 大成は欠くるが若(ごと)く、其の用は弊(すた)れず
ほんとうに完全なものは、欠けたところがあるかのようであって、そのはたらきはいつまでも衰えることがない
(道の無限であることをいっている)
48 学を為せば日々に益し、道を為せば日々に損ず
学問を収めていると、その知識は一日一日とふえてくるが、道を修めていると、その知識は減っていく
(知識はいらなくて、無為の極限には、無為のままですべてのことをりっぱになしとげることができるようになる)
53 我れをして、介然として知有らしめば、大道を行くに、ただ、ななめなるを是れ畏れん。
もしわたしに、ほんの少しでも世間的な知恵があるなら、大きな道を歩くときにその知恵に惹かれて脇道にそれることこそ畏れるだろう
(道教という大きな道をあるいていけといっています)
55 物は壮なれば即ち老ゆ、是れを不道という
ものごとは強壮であれば、あるほど、むりをして、老衰へと落ち込む。これこそ道に従わないということだ
56 知る者は言わず、言う者は知らず
ほんとうに分かっている人はしゃべらない、よくしゃべる人はわかっていない
60 大国を治むるは、小鮮を烹るが若(ごと)し
大きな国を治めるのは、小魚を煮るようにかきまわさず、静かに無為であるのがよい
63 無為を為し、無事を事とし、無味を味わう
何もしないことをわがふるまいとし、かくべつの事もないのをわが仕事とし、味のないものをお味わってゆく
65 古えの善く為す者は、以て民を明らかにするに非ず、将(まさ)に以てこれを愚かにせんとする
道をりっぱに修めきったむかしの人は、それにひょって人民を聡明にしたのではなく、逆に人民を愚直にしようとしたのであった
68 善く士たる者は武ならず、善く戦う者は怒らず
りっぱな武士というものはたけだけしくない、すぐれた戦士は怒りをみせない
78 天下水より柔弱なるはなし
世界中に水より以上に柔らかで弱弱しいものはない
81 信言は美ならず、美言は信ならず。善なる者は弁ぜず、弁ずる者は禅ならず。知る者は博(ひろ)からず、博(ひろ)き者は知らず
実のある言葉は飾り気がなく、飾り立てたことばには実がない。りっぱな人物は口上手ではなく、口のうまい人はりっぱではない。ほんとうの知者は博学ではなく博学な者はほんとうの知者ではない
目次
学術文庫版まえがき
凡例
老子道徳経 上篇 1~37章
老子道徳経 下篇 38~81章
解説
1 儒家と道家
2 老子の思想
3 老子という人
4 「老子」という書物
5 テクスト・注釈書・参考書
索引
ISBN:9784061592780
出版社:講談社
判型:文庫
ページ数:284ページ
定価:1110円(本体)
発行年月日:1997年04月
発売日:1997年04月10日第1刷
発売日:2003年02月20日第16刷
- 感想投稿日 : 2024年2月8日
- 本棚登録日 : 2024年2月8日
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