交渉術 (文春文庫 さ 52-2)

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年6月10日発売)
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読んでいて怖くなりました。
日露平和条約の締結と北方領土問題を阻んだものは何であったのか。
あゝ、今少しで失われし国土を取り戻すことができたかもしれず、非常に残念です。

巻末にひっそりと語られている鈴木宗男氏の杉原千畝の名誉回復に始まる国際協調
佐藤氏と築いた、唯一、プーチンにいつでも会える政治家としての、鈴木宗男氏。
チェルノブイリの支援を含めた、ロシア、中央アジア、アフリカ諸国、イスラエルとの関係を戦略的に強化しようとした鈴木宗男氏の構想。
それらが外務省のアメリカスクールで、いやアメリカそのものを刺激してしまったのでしょうか。

気になったものは以下です。

・「貴様嘘をつくな!」といえば、相手も「なに!」といってけんかになる。ところが、「お互い正直にやりましょう」といえば、誰も嫌な思いをしない。日本人にはこの使い分けがわかっていない。
・交渉術は、善でも悪でもない、価値中立的な技法である。したがって、交渉術においては、物事の本質を見極める洞察力よりも、道具的知性の方が必要とされる。
・インテリジェンスと交渉術は、不即不離の関係にある。
・ターゲットの論理を深く知ることは、交渉術の要諦の一つである。
・広義の交渉術には3つのカテゴリーがある。①交渉をしないための交渉術、②暴力で相手を押さえつける交渉術、③取引による交渉術
・交渉の世界に完全に対等な立場はない。お互いに少しでも有利な立場を獲得するために交渉で、虚々実々の駆け引きが行われる。
・だます者が悪いのではなく、だまされる者が間抜けなのである。
・インテリジェンス機関は、心理学、動物行動学を汚い交渉術を組み立てる上での基本として重視している。
・実際の工作においては、人間は保守的に行動することを前提とする。つまり、動物でありながら、愛や名誉を重んじ、対面を気にかけ、社会的慣習に縛られるという人間の矛盾が、こちらのつけ込むスキとなるのだ。
・人間が本気で怒るときは、全く事実無根の話で名誉を傷つけられたか、知られたくない事実を暴露されたときかのいずれかである。
・自分にとって都合の良くない秘密の話の9割は本人の口からもれる。
・直接カネを渡すより、相手が必要とするサービスに対して、費用を肩代わりするというのが案外効果がある。相手の配偶者や子供が病気になったときの医療支援は人間的信頼関係を強化する上で大きな効果をもつ。命を助けてくれるために協力してくれた人に対する恩義は、たとえ手術が失敗しても忘れない。したがって、熟練したヒューマン・インテリジェンスの専門家は、名医とのネットワークを必ずもっている。
・拷問のやり方でもっとも効果的な手法は、被尋問者には暴力を一切与えずに、目の前で被尋問者がもっとも愛する人、妻や子供に対して拷問を加え自白を迫る手法である。
・難しい仕事には2つの種類がある。一つ目は、仕事の内容自体が難しい話、二つ目は、仕事自体は、それほど、困難なことではなないが、政治的な事情で面倒な話だ。
・嘘が露見したときにとる方法は2つある。第一は、嘘をついたことを認め、相手に詫び、嘘をつかざるを得なかった事情について説明をすること。第二は、嘘はついていないと怒って見せることである。
・情報屋の修正は私自身が情報屋なので、だいたいわかる。会談相手に関する情報を徹底的に集める。特に相手以上に相手について知っているということが、交渉で有利な立場を確保するためには不可欠だ。
・トップは孤独に耐えなくてはならない。むしろこのことは裏返しで表現すべきだ。孤独に耐える資質がある者でないと、トップにはなれないのである。
・何も見返りを求めず、相手の懐に入ることによって、自己の利益を最大化するのが交渉の弁証法だ。
・ほんとうの取り引きとは、取り引きということを相手に悟られずに行うものだ。
・ゲンナ元ロシア国務長官に言われたことは2つだ。1つは、過去の歴史をよく勉強しろ。現在、起きていること、また、近未来に起きることは、必ず過去によく似た歴史のひな形がある。それをお押さえていれば、情勢分析を誤ることはない。2つ目は、人間研究を怠るな。その人間の心理をよく観察せよ。特に、嫉妬、私怨についての調査を怠るな。

最後に”大和魂”という言葉を核に という言葉がありました。

明治天皇の御製 「しきしまの やまと心の をゝしさは ことある時ぞ あらはれにける」、意味は、日本人の勇気は日本国家に一大事が起きた時に発揮されるという意味
東日本大震災の折に、天皇のビデオメッセージは、終戦時に玉音放送に匹敵するとのコメントをしめしています。


目次は以下の通りです。

1 神をも論破する説得の技法
2 本当に怖いセックスの罠
3 私が体験したハニートラップ
4 酒は人間の本性を暴く
5 賢いワイロの渡し方
6 外務省・松尾事件の真相
7 私が誘われた国際経済犯罪
8 上司と部下の危険な関係
9 「恥を棄てる」サバイバルの極意
10 「加藤の乱」で知るトップの孤独
11 リーダの本質を見極める
12 小沢vsプーチンの真剣勝負
13 意地悪も人身掌握術
14 総理の女性スキャンダル
15 エリツィンの五段階解決論
16 米原万里さんの仕掛け
17 交渉の失敗から学ぶには

あとがき
東日本大震災と交渉術

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感想投稿日 : 2022年9月26日
本棚登録日 : 2022年9月23日

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