日本人が知らない世界の歩き方 (PHP新書 424)

著者 :
  • PHP研究所 (2006年10月1日発売)
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まったくすごい女性である。100か国以上を訪問し、サハラを横断し、緒方国連高等弁務官とともに世界を旅し、日本財団が寄付した先で、目的通りに使われているかを自費で確認に行く。
決めてあった国に政変があったが、予定は変更をせず、陸路でももどれるように経路となる国すべてのビザをとり、しかも、300枚ものドル紙幣を現金で用意するようなしたたかな女性なのである。

本書は、著者が世界を実際にみて感じ、経験した見聞録である。

気になった点は以下です。

・フィリピンに精巧な民芸がないのは、過去に圧政を行った強力な王朝や政府がないからなんですね。富が偏在したり、暴君がでたりすると、職人は悲惨な状態で技術を強制されたり、パトロンが生まれてすばらしい職人芸が育ったりするんです。
・インドで会った、日本人のシスターは私たちが持参した「カップ・ラーメン」で「大宴会」を楽しんだ後、ラーメンの容器をすべて持ち帰った。そういうものも身近で貴重品なのである。
・匠が存在する社会にしか、近代的なテクノロジーの発展はない、と私は思っている。「さらなる厳密な技術」が要求され、愛され、評価され、報いられ、それが美と認識する社会にしか、テクノロジーは伸びないのである。
・(逃げ遅れた子羊に脇腹をつつかれて)小心な羊もいざ追いつめられ、必死で、活路を見つけだそうとすると、あれだけの力が出るということが、私には印象的であった。私も羊と同じように小心な人間である。けれど、今までに何度か、こんな具合に体当たりで運命を開いてきたこともあるのかもしれない。
・日本人は過去を切り捨てれば、それで罪の償いができたと思うんです。だから戦争中の軍神や軍人の銅像をさっさと撤去してしまう。しかしイタリア人はローマの町の中にある過去の愚かな情熱を示す記念の碑や銅像や建物を絶対に壊さないんです。むしろそれがなくなったら、過去に自分たちが犯した愚行も忘れてしまう。だから、自省のためにがっちりと取っておくんです。
・(荷物を盗んだ子供から、取り返してつめようとすると、仲間の一人が何でそんなことするんだいと悪態をつかれたことについて)この辺の呼吸を私も途上国で苦労した人に教えらえたことがある。「はじめから騙されることもありませんけどね。向うは貧しいんですからね。値切るのはいいけど、最後に少しは騙されてやることが大切なんです。」
・「こんなことを言ってはいけませんが、この子は手が不自由だから、誰ももらい手がつかないんでしょうか。」
 「いいえ、ほかの子にもらい手がつかないことはあっても、この子にだけは、必ずつきます。こういう子供をもらって幸福にすれば、神さまは普通の子を育てるより、倍も喜んでくださいますから」
・カポエラは、武器のない武術で、柔道とも、合気道とも、少林寺拳法とも少しづつ似たところがある。もちろん奴隷たちが、主人に造反する時に有効なこうした格闘技を身につけることはご法度であった。しかし彼らは、一目がある時は踊っているように見せかけ、いなくなるとすぐ武術に切り替えるという隠密なやり方で、こうした自衛の武術を完成したのである。
・オーバブッキングになった時誰が席から追い出されるかは、簡単で明白な力関係によるのである。
 第1にオミットされるのは、その場にいなかった人間である。存在するということは偉大なことだ。私たちはこの点を抑えようとしたのである。
 第2に追い出されるのは、力のないものである。力というとすぐ武力と思うのは、日本人の単純さである。
・最近、日本人は現世に人間の力ではどうしても解決できない問題があることを忘れてしまった。不幸の原因は、社会の不備から出るもので、それは政治力の貧困が主な理由だと考える。だからいつかは、その不備を克服できるはずだ、と思いあがりかけている。
・チャドには、日本の大使館も商社もなかった。今どき、日本の商社が一社も入っていない、という国は、...つまりその国には駐在員をおくほど買うものも売るほどもない、ということだ。売るものがない、というより、日本の産品を買える階層がほとんどいない、と言った方が率直でわかりやすい。
・自分が死んでも、他人を救うことができる人など数すくない。ルワンダの人々は、そうしなかった人を極悪人として告発したが、私はそれは普通の人だと感じている。
・「砂漠の民」には思いやりがない、ということは、私がいつも聞かされてきた話だった。

目次は、以下です。

はじめに

第1章 アジア 人間の「ろくでもない強さ」
第2章 ヨーロッパ 「それが人生」
第3章 アメリカ どうでもいい素顔
第4章 南米 金と愛、そして子供
第5章 アフリカ 自然の威力、人間の無力
第6章 アラブとユダヤ
総括 世界を歩くということ

出典著作一覧
引用文出典一覧

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感想投稿日 : 2022年9月14日
本棚登録日 : 2022年8月17日

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