戦国時代から安土桃山時代にかけ、遠江国の井伊谷を治めた井伊家の女当主である次郎法師こと、井伊直虎の生涯を描いた歴史小説。
主人公に関する史料自体は乏しく、出自や性別について研究者の間でも議論の分かれる人物ではあるが、本書は、江戸時代中期(1730年)に龍潭寺の住職が著した『井伊家伝記』による通説に基づいて書かれている。
(表題も『井伊家伝記』の記述、“次郎法師は女こそあれ井伊家惣領に生候間”から来ている。)
大河ドラマでも取り上げられた題材だが、著作は十年以上前に刊行されており、相関図や人物描写はさほど一致しない。
井伊氏の始祖・共保が井戸より出生した伝承に始まり、今川・松平・武田と強大な隣国に囲まれ、乱世の理不尽に翻弄され、常に侵略と略奪の危機に立つ小国の悲哀と艱難辛苦、女性領主の奮闘が活写される。
父・直盛への慕情や、かつての許嫁・直親への思慕、彼の遺児・直政の養育に臨む母性など、女性としてのさまざまな心の機微が、女流作家の手で繊細に綴られ、奥行きのある説得力を持つ。
史実の隙間を縫うように、細やかに紡がれた『女の物語』は、戦国の世を影から支えた、名もなき女性たちの忍耐と尽力の一つの象徴と言えるのかもしれない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説(歴史物・時代物)
- 感想投稿日 : 2023年5月6日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2023年5月6日
みんなの感想をみる