NHK 100分 de 名著 レイ・ブラッドベリ『華氏451度』 2021年6月 (NHK100分de名著)
- NHK出版 (2021年5月25日発売)
作品内にちりばめられた対比の構造が面白かった。たぶん、解説が無ければ気づかなかったであろうレトリック 暗喩についてまでも解説されたので、たいへん濃密な読書体験だった。(もちろん、通常の読書体験とは別物であることには留意されたい)
映画版への言及があったのもよかった。私は映画版の存在を知らなかったし、きっと知っていても、価値を見出せなかっただろう。映画版でより洗練された描写がある、という指摘は、まさしく解説ありきの支店だった。
原著の伏線の数々には脱帽する。特に、鏡の暗喩については言われなければわからなかっただろう。そういったこまごまとした伏線=物語としての説得力の強さが、この原著の魅力の一つなのかもしれない。
それだけに、未熟な読者である私は「啓蒙」の手段を教えてほしかったと悲嘆せずにはいられない。現実を生きる私たちにとって、神の鉄槌による強制リセットはあまりにも非現実的で、期待できない手段だ。私たちがこれからどうしていくのか、それは、それこそ悩みぬいた主人公のように、私たち自身で悩めということなのだろうか…わたしは、このめくらの洞窟から抜け出せるのだろうか。まさしく鏡を覗き込むような読後感だった。
ざんねんなところ。少しだけ解説者の政治思想が現れていたのが目に障った。当たり前だが、外国の昔の人間である原作者は、今の日本の政治なぞ知らないし、考慮していない(していたとしてもせいぜい母国のそれだろう)。だのに現在の日本の政治を揶揄するのは、名著の解説といった役割から逸脱していたように思う。
それだけ原著が克明に未来を見据えたものであったといいたいのだろうけれど、それこそ読者が察するべきところであって、口(文字)で説明するのはナンセンスだ…美意識の違いなのだろうか。
原著は……いつか読めたらいいね……
自分のブログ記事より引用しました。
- 感想投稿日 : 2022年5月11日
- 読了日 : 2022年3月10日
- 本棚登録日 : 2022年5月10日
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