大臣 増補版 (岩波新書 新赤版 1220)

著者 :
  • 岩波書店 (2009年12月18日発売)
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感想 : 27
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(2010.06.18読了)(2010.06.09借入)
菅直人氏が総理大臣に選ばれたので、前から気になっていたこの本を読んでみることにしました。
菅さんは、1996年の第一次橋本内閣で、厚生大臣を勤めました。「この時の10カ月にわたる厚生大臣の経験で、私はこの国が国民主権国家ではなく、官僚主権国家であることを、深く認識した。」(ⅱ頁)
「政治家はすべての情報を官僚に握られ、政策の是非を判断する機会も事実上、放棄していた。それが自民党の政治システムだった。」(ⅲ頁)
「本書旧版では、内閣と大臣のシステムが国民主権になっていないことを実際に政権の中にいた者として記すとともに、そのあるべき姿を示し、どうすれば本来の国民主権による内閣と大臣が可能かを提示した。」(ⅳ頁)
国の仕事は、すべて法律に基づいて行われるので、記述の中に結構法律の定めが出てきて、分かりにくい面があるのですが、我慢して付き合うしかありません。

●事務次官会議(5頁)
事務次官会議は、内閣制度が発足した翌年の1886年から123年間にわたり開かれてきた。原則として閣議の前日に全府省の官僚トップが出席して開かれ、閣議に提出される案件のほぼすべてをここで決めていた。
事務次官会議は重要な意思決定機関だが、内閣法にも国家行政組織法にも、どこにも定められていない会議である。慣例として開かれていたにもかかわらず、実質的に国の基本政策のすべてがこの会議で決められていた。
●閣議(44頁)
「内閣の事務」は、内閣法四条①に「内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。」とあるように、すべて閣議という会議で決定していくことになっている。つまり、内閣の一員である国務大臣の最大の任務は、閣議に出席することなのである。言うまでもなく、閣議は国の行政の最高意思決定機関である。
●大臣就任記者会見(97頁)
どの大臣も、就任したばかりでまだ何も分からない状況でいきなり記者会見に臨むので、官僚が用意した文書を読むしかない。そこには当然ながら官僚が推し進めたい政策や方針が書いてある。
●資料隠し(104頁)
薬害エイズ事件の裁判が長い時間を必要とした最大の原因は、厚生省による資料隠しであった。この事件に限らず、国や地方自治体が被告となっている裁判では、原告側に立証責任があるのをいいことに、行政側は裁判に必要な資料をなかなか提出しようとしない。
●薬害エイズ事件関連ファイル発見(111頁)
薬務曲のロッカーの中からファイルが見つかったのは、プロジェクトチーム発足から3日後のことだったらしいが、私のもとに報告が来たのは、10日以上たった2月9日だった。この日は金曜日だった。この件に限らず、官僚は重要な案件については金曜日に持ってくるという習性がある。
(その日のうちに発表することを反対されたが、「ファイル発見」ということを公表)
●国会議員の質問
国会の会期中であれば、国会議員は国政に関することならば、自分が所属している委員会の範囲にとどまらず、政府に対して文書の形で質問ができる。その質問は衆議院議長の名前で内閣に対して送られ、受け取った内閣はやはり文書で7日以内に回答しなければならない。この回答は閣議を通さなければならず、政府の公式見解として残るものだ。
●縦割り行政(128頁)
当初、O157は食中毒とされていた。すると、それを担当するのは生活衛生局の食品保健課となる。だが、O157は食中毒が入口だが、その後は感染症となる。すると、感染症は保健医療局のエイズ結核感染症課というところが担当となる。さらに、医療機関の指導に当たるのは、健康政策局指導課となる。
●過ちを認めないのは国のため(138頁)
官僚の理屈では、過ちを認めないのが国のためなのだという。行政が過ちを認めて和解に応じれば、税金から補償金を出さなければならなくなり、国家にとって損失となる。
●国民主権(224頁)
官僚主権を国民主権にするためには、選挙で国民から選ばれた国会議員が政府を運営しなければならない。それが実現できて初めて、真の国民主権の国となる。
●政策達成目標明示制度の導入(242頁)
その予算を使うことで、どのような政策が実現し、具体的な社会的効果がどのように達成されたのかが、これまで曖昧だった。

内閣および行政の仕組みがどのようなものか知らなかったので、結構刺激的な内容でした。

著者 菅 直人
1946年、山口県生まれ
1970年、東京工業大学理学部卒業
1980年、衆議院選挙に初当選
1996年1月から11月まで、第一次橋本内閣の厚生大臣を務める
1996年、民主党を結党し、共同代表に
1998年新たに結成された民主党の代表、政調会長、幹事長などを歴任
2010年6月、総理大臣就任
(2010年6月22日・記)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会問題
感想投稿日 : 2010年6月22日
読了日 : 2010年6月18日
本棚登録日 : 2010年6月18日

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