終戦のローレライ 全4冊合本版 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2016年8月12日発売)
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感想 : 5
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2019/10/14読了。
2002年に初版で読んで以来だから、実に17年ぶりの再読ということになる。初版は上下2冊、文庫はそれを4冊に分冊、今回読んだのは文庫全巻を合冊した電子版だ。
福井晴敏がガンダム作家になってしまう前の、間違いなくこれは代表作と呼べる傑作だと思った(ガンダム作家になってからも基本的には同じテーマを書き続けたようなので、人によってどれを代表作と呼ぶかは違ってくると思うが)。
戦争アクション小説にしてはなんとくどくて密度が高くて熱量の高い文章だろう、という印象は再読でも変わらなかったが(当時、僕はこのテイストを個人的に「福井節」と呼んでいた)、このくどさと密度と熱量を必要とする物語とテーマではあった。特撮映画「ローレライ」やコミックの原作ノベルだと思って読むと、なんて読みにくい文章だろうと感じる向きもあると思う。
冒頭からしばらく読んでこのテイストに耐性があると思ったら、一気呵成に読破することをおすすめする。クライマックスに差し掛かったら島崎藤村作詞の唱歌「椰子の実」を探してきてBGMにしながら読むことも強くおすすめする。涙腺崩壊必至である。
さて、2002年の初読と2019年の再読で最も印象が変わったのはどこかというと、浅倉大佐が予言した敗戦後の日本の亡国の有様だ。初読時は過去にフォーカスして「まあそういう側面もあるけど日本人もそこまで愚かじゃなかったとも言えるんじゃないかな」と思考回路に逃げ道を作って読むことができたが、今回はもうはっきりといま現在にフォーカスして「的中したあと追い越しちゃったな」という印象だった。伊507の乗組員に謝れ俺たち。そういう意味では、ほめてもらうキャンペーンをやろうとした作家が書いたゼロ戦小説のような代物よりも、いま読まれるべき意義がはるかに高い戦争小説でもある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文芸一般
感想投稿日 : 2019年10月14日
読了日 : 2019年10月14日
本棚登録日 : 2019年10月10日

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