民話、昔ばなしかな?って感じだけど、それだけにあらず。
むかしからの日本各地の人びとが
時に苦しい暮らしのなかで生き延びるために編み出された
不思議だったりおもしろかったり悲しかったりのお話。
物語になっていない、エピソードのように断片的なものもある。
ねずみの地下の国、浄土の話など、各地でよく聞かれるものもあるようだ。
あとは戦地に赴いた人が、死期に故郷の親兄弟に知らせるべく夢に出てくる話。
それも民話らしい。
あてもなく海辺や山合の町を訪ね歩き、むがぁしむがし、の覚えている話を聞かせてくださいと見ず知らずの人の家に行くのは、考えられないくらいキツいこと。
でもこの方、話を聞いていくごとにどんどん相手の心に立ち入っていくような不思議なパワーとスキルをお持ちのよう。
すっかり仲良くなって、度々訪ねていったり、亡くなる間際に形見を預けられたりとかで、すごいんだから。
あらためて、民話って、何。
人びとの暮らしと共にある、子どもをあやす話。語り継がれる話。
幼くして奉公に出された子どもたちが、どうにも辛くなったときに、町外れにあるそうした民話を語ってくれる一人暮らし(たいていなにか訳あり)の大人のところへ集まる、という話もあったな。
人びとのそばにある、人びとなぐさめる、人々とともにあるお話、というものかな。
かつ、どの時代にもずっとそばにあるもの。
3.11の震災のときのことも描かれている。
民話でつながった縁が、震災のあとの再会でしみじみ深いものであるとわかる。
ただの昔ばなしではなく、現代も人びとの中にある、暮らしの悲しみやそういうのを表現して共有するのが民話。
こういう、変わり者とみられるような、探訪者がいなければ、この世から消えてなくなってしまうようなお話の数々なんだろうな。研究者だね。
東北なまりが郷愁を誘う、貴重な保存版のような一冊なのであった。
- 感想投稿日 : 2022年11月30日
- 読了日 : 2022年11月30日
- 本棚登録日 : 2022年10月27日
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