2022年4月6日水曜日。午後3時。
本屋大賞の発表だ。
同じく読書が趣味だという青年(生徒)と、わたしは本屋大賞のリンクを開く。
お互いに大賞を予想した作品は朝井リョウさんの『正欲』だった。
今か今かと発表を待つ。
そしていよいよ発表の時。
今年は『同志少女よ、敵を撃て』だった。
著者である逢坂冬馬さんが出てくる。
2人同時に、思わず「若!」と声が出た。
偏見かもしれないけれど、「作家さん」と呼ばれる職業としては、随分と若い風貌をしていた。
作中に出てくるロシアの戦争と、今行われているロシアでの戦争とに触れた、とても胸にくるスピーチだった。
その後の彼の言葉も、作家としてというよりむしろ人間としてすごくかっこよくて、思わず2人で画面越しに拍手を送る。
一体どんな人なんだろう…
気になって思わず作者について調べる。
おいおい、同い年じゃないか!
しかもデビュー作って!!
なんてかっこいいんだ…戦争が行われているこの状況下でしっかりと自分の軸でもって堂々と自分の意見を語る姿。本当にかっこよかった。
この作品『スモールワールズ』は惜しくも4位、我々の予想した『正欲』は3位という結果に。
本屋大賞にノミネートされ、各方面(フォロワーさんや読書好きの方々)から「面白い!」と話題の本作品。
本屋大賞の発表のタイミングで手に取った。
短編集の形をとった連作短編集だ。
何かをする時間が惜しい、ってくらい、夢中になって読んだ。
わたしのいつもの通勤時のルーティーン。Twitterをたらたら見て、ブクログを開いて、体調管理のアプリをつけて、友人からのLINEを返す。その後で読書に入る(だけどたまに友人が同じく通勤していると、くだらないLINEで盛り上がりすぎて読書に入らない日もある)。しかしこの作品はもう電車に乗ったら、いや乗る前から読みだしてしまって止まらなくてTwitterどころじゃない、LINEどころじゃない。返信止めまくったみんなごめんよ…!
夫婦問題、不妊、体罰、虐待、犯罪被害者、性的マイノリティ…など、現代の様々な社会問題をとりあげつつ、その生きづらさの中に生きる人たちの、ささやかで、だけどとてつもなく苦しくて愛おしい6編。
この作品を、第一話『ネオンテトラ』の世界観を借りて言うとするならば。
自分の心が空っぽの水槽だとして、そこに何かがゆっくりと満たされていく感じ。
まずは水が入り、少しずつ魚が増え、彩りを増し、それをただ眺めているだけのところから、徐々に魚たちのめんどうをみていくようになるような、そんな感じ。
絶望を描きながらも、大切な何かをしっかりと掴み取っていく。
短編集なので一話一話はそこまで長くはないものの、その一話に込められた想いはめちゃくちゃ強い。6つの短編集で100になっているのではなく、1つの短編が120くらいの威力でやってくる。
人間て、生きてるって、こういうことなのかもしれない。自分一人の人生なんて、世界で起きていることと比べたらくだらない、って思うけど、みんなそれぞれのスモールワールズの中で生きていて、いろいろある。
こういう作品は、日常の一部じゃなく、一部を全部とした生活の中にほしい。
(B’zの曲みたい)
つまり、家に引きこもってただただこの作品の世界に浸るような、読書を生活の全部にしたような世界で読みたい。
職場の最寄り駅に着かないでほしい。
まだまだ作品が築き上げているスモールワールズの中にいたい。
しかしながら、電車はきちんと定刻に発車して、定刻に停車する。
その人にはその人の日常生活=スモールワールズがあって、その人なりのスモールワールズがある。
一番最後まで読んだ時、最初に読んだ作品の見方が大きく変わってくる、のかもしれない。
- 感想投稿日 : 2022年4月15日
- 読了日 : 2022年4月9日
- 本棚登録日 : 2022年4月15日
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