かがみの孤城

著者 :
  • ポプラ社 (2017年5月11日発売)
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本棚登録 : 38748
感想 : 3369
5

人間の生態ってすごくてさ。
この作品に出会って、読んで、心からぶわっと、何かがあふれ出す、その瞬間を楽しみにしていた。
やっと読めた。
特に中盤以降、物語の展開とかがみの孤城の彼らへの思いが止まらなくなってしまって。
通勤電車の中で、寝る前のベッドの中で、浮き上がってくる鳥肌を抑えることが出来ずに夢中になって読んでいた。
それなのに。
人間て、眠くなるのね。
おかげで思っていたより、読了まで時間がかかってしまいました。
疲れたら「疲れた」って、身体はサインを出してくれる。
そう、それは、かがみの孤城の彼らも同じこと。彼らもきっと、サインを出していた。大人は、彼らの発する、そのサインに気付き、一緒に向き合ってあげないといけない。

辻村さんの作品は、「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」や「朝が来る」などの社会派よりの作品しか読んだことがなくて、彼女が得意とするSFやファンタジーの作品は、今まで触れてきたことがなかった。この作品は、学校に行けなくなってしまった主人公の女の子が、不思議な体験を通して現実とどう向き合っていくか、ということを描いた作品なのだけれど、その「不思議な体験」の中にSFやファンタジーといった要素が含まれていて、さらに「不登校」という現在の社会的な課題(という言い方がふさわしいかどうかはわからないけれど)に注目しているという点で、辻村作品の神髄ともいえるような作品なのかなと、そんな風に感じました。

少しばかり自分の話をすると。
以前、子どもの虐待対応の仕事をしていて、その時に学校へ行けなかった子ってたくさんいた。そこには少なからず虐待が関係していて、でも虐待が解決してじゃあその子がすぐ学校(もしくはそれに代替する場所)に行けるかと言われると、そんな簡単じゃない。そこで、学校と連携して、その子が学校へ行けるような支援を開始する。でも、虐待対応を本職としていると、それがなくなった時点で、その子とはもう関われなくなってしまう。一生懸命関係を築いても、学校へ引き継いで、わたしは新たな虐待対応をする。これは結構きつかった。関係を築いていく中で、学校へ行けなくても、「naonaonao16gとの面談は続けたい」、そんな風に言ってくれる子を、わたしは放っておけなかった。だから、転職した。虐待、とまでいかなくても、学校へ行けない、でもSOSは出している、そういう子を”継続的に”サポートするために。

今、わたしがしている仕事はざっくり言うと「不登校支援」というようなもので、全日制の高校とは違う選択をした子たちと関わっている。わたしは別に、学校は行っても行かなくてもいいと思っているけれど、彼らの居場所となるところがあればいいな、と思っている。勉強も絶対にしないといけないわけじゃないと思っているけれど、勉強はやれば力になるし、「できない」を「できる」にする、「できた」という自信をつけられるものだから、自信をつける一つの道具としてはとても有力なものだと思っている。その点で、学校の可能性ってまだまだあると思っている。
前職と、わたし自身が学校が大嫌いだったせいか、新しい子が入学してくるたびに、「この子に何があったんだろう」と思ってしまう。「何かがあったから学校へ行けない」と思ってしまう自分がいる。だけど、そうじゃない。選択の幅を広げたい子だっているし、海外の生活が長かった子もいるし、単純に「普通の高校が合わない」という子だっている。
わたしも、みんなが普通にしている「会社員」が合わなさすぎて、早くフリーランスとして自立したいものだと思っている。でもすぐにはできなくて、ずるがしこく、会社のいいとこだけつまみ食いして生きている。大人になれば、そういう選択肢を自分でとれる。でも、子どもの世界ってそうじゃない。「学校にいけない」ただそれだけで、世界からつまみ出されてしまったような感覚に陥る。ダメ人間の烙印を押されたような。でもそうじゃない。本当にそうじゃない。話を聴いて、「大丈夫」「一緒に考えよう」と伝える大人が近くにいるだけで、生きていけると思うんだ。うまくいかなくなったら戻れる居場所があること、相談できる大人がいること、たったそれだけ。それなのに、それって本当に、本っっっ当に大変なことなんだよな。だから、今目の前にいる、今関わっている子たちには、「困ったらいつでも戻ってきていいよ」「一緒に考えよう」と、伝えたい。
でも同時に。全員が何かに困っているわけじゃない。わたしの場合、それもひとつ、肝に銘じておかないと。

この作品では中学生が主人公で、その子が学校へ行けない、という視点から「生きづらさ」を描いている。でも、高校やその後の進路で、不登校とは別の形で「生きづらさ」って出てくることもあると思う。この作品全体の思いと、ちりばめられた言葉の数々を思うと、そんな時にも、助けになってくれる作品だと思います。大人も子どもも読みやすい筆致で描かれているので、主人公と同じ中学生のみならず、小学生だって読めると思う。さすが、本屋大賞受賞作品!!

生きている人みんなが、少しでも幸福な気持ちになれますように。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年8月10日
読了日 : 2020年8月8日
本棚登録日 : 2020年8月10日

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コメント 12件

nejidonさんのコメント
2020/08/10

naonaonao16gさん、こんにちは(^^♪
暑い日が続きますが、お変わりありませんか?
お仕事の件、思いがけないご縁を感じてコメントします。
不登校の子たちのフリースクールにお話会に行っておりまして。
小中対象で2か所。もう10年ほどになります。
通常学級の生徒たちより、はるかによく聞いてくれます。
30分でも40分でも身じろぎもせず集中してくれます。
感想もきちんと述べてくれますし。
普通って何だろう?ってよく考えますね。
あの子たちに会えるのがいつも楽しみなワタクシです。
すみません、レビューからとんだ話になりました。

ごはんさんのコメント
2020/08/11

naonaonao16gさん
素敵なレビューを読ませていただきました。
この作品は、年齢問わず誰にでも「学校」「友達」というものが持つ影みたいなものを巧く炙り出したものですね。
本当は、学校と家庭以外に身の置き場がないわけではないのに、それしかない、そこだけという環境は辛いもの。

フリースクールや保健室等、他の居場所の大切さはもっと理解されてもいいなと、子ども達がアラサーのおばちゃんでも強く思います。

私も「学校」が嫌いでした。でも昔は嫌いと思うことも禁じていました。実家・故郷、幼馴染とも完全に縁遠い関係です。

でも生き永らえることが出来ています。ここじゃなくても、そこがある。あの人がいる。
それが人でもモノでも、本でもいいのかな。

その多様性がもう少し受け入れられるといいですね。
ご自身を開示したとても素敵なレビューに、お礼が言いたくて、一言コメントを投稿させていただきました。

naonaonao16gさんのコメント
2020/08/13

nejidonさん

こんばんは^^
コメントありがとうございます!
本当に、毎日とっても暑いですね…わたしはなんとかやってます!!
nejidonさんはいかがですか、体調、崩されてないですか??

nejidonさん、ものすごいご縁ですね!不登校児のフリースクールのお話会に行かれているんですね!
お話聞いてくれる子たちなんですね!素敵~

普通って何だろう、わたしもよく思います。そして、子どもとの話から、自分が何気なく「普通」というものを押し付けているんじゃないか、と気付くこともあります。子どもたちとの関わりは日々勉強ですし、常に大切な気付きがあります…

わたしも仕事嫌だな、とは思いますが、生徒たちと関わるのはとっても楽しくて^^

これからも、この何気ない気持ちを大切に、子どもたちを見守っていきましょうね!
同志が見つかったような感覚になりとても嬉しく思いました◎

naonaonao16gさんのコメント
2020/08/13

mariさん

こんばんは^^
コメントありがとうございます!いつもいいね、ありがとうございます(´▽`)

mariさん は学校でお仕事をされているんですね…ものすごく激務ではないでしょうか…今年は特に、コロナで激動の中にいるのでは…いつもお疲れ様です(*_*)

嬉しいお言葉、ありがとうございます!
学校教育に対して疑問点・改善点など、思うこともありますが、わたしはまだまだ学校に可能性も感じています。今ある古い慣習や価値観が、時代と共に少しずつ変容して、より多くの子が「学校は楽しい」と思える場所になったらいいなと思っています。

学校は子どもにとって大切な場ですが、とても大変なお仕事だと思います。お身体、大切にして、働いてください^^
わたしもmariさん のお仕事を応援しています◎

naonaonao16gさんのコメント
2020/08/13

まんぷくさん

こんばんは^^
コメントありがとうございます!

わたしはミドサーなのでまんぷくさんのお子さんより、少し歳は上になります。
わたしの親とまんぷくさんの年齢がもしかしたら近いのかも、と思いながらの返信になるのですが。

わたしの両親は教員で、なかなか新しい価値観を受け入れるのが難しい人でした。なので、まんぷくさんのように学校以外の場を認めてくれること、学校が嫌いだったこと、多様性への理解等、自分の親と年齢がおそらく近い方が言ってくださることで、学校が嫌で仕方なかった頃の自分が救われた気持ちになります。
「嫌いと思うことも禁じていた」というのはまさしくわたしも同じで、「親が学校の先生なのに学校に行きたくないなんて言っちゃダメ」と常に自分に言い聞かせていました。

自己開示は時々怖くなることもありますが、そのように言っていただけてとても嬉しいです。緊張しつつも書いてよかったです!
いつでもコメントお待ちしています^^
これからもよろしくお願いします◎

mayutochibu9さんのコメント
2020/08/17

いつも、「いいね」を押してくれる方は気になります。
そして、私の本の備忘録とは異なり、本と現実の社会を結び付けた感想はとても重く、考えさせられました。
学校も個々の組み合わせで、雰囲気が全く変わるそうです。
誰が悪いというわけではなく、全体として悪くなったり、
誰が良いというわけでもなく、全体としてよくなったりします。
学校は不思議な世界であります。夢物語化もしれませんが、小中学校も選べるようになり、楽しく学べるところに行くというスタイルが確立できれば、いいなと思います。
これがまた社会でると人間関係で会社を辞める方が出てきます。
やっぱ、大人の縮図が子供にも影響を与えてしまうのかなとつい考えてしまいます。

naonaonao16gさんのコメント
2020/08/20

mariさん

お返事ありがとうございます。
mariさんのように、客観的な立場で、でも現場を知っている、という方は、現場にとっても大変貴重だと思います。安心して愚痴れるというか。先生方と、図書室を利用する子どもたちの支えになっているのだなという気がしました^^

これからも子どもが「楽しい」と思える環境づくりをしていく仲間として、一緒に頑張りましょうね(´▽`)

naonaonao16gさんのコメント
2020/08/20

mayutochibu9さん

こんにちは^^
コメント、ありがとうございます!嬉しいです!

自分で選んだわけではない、ただそこに住んでいるというだけで一斉に集められた子どもたち。
そこが合う子もいれば、合わない子もいて当然です。高校やその先の進路になれば、選択の幅も広がりますが、人生でたくさんのものを吸収する時期に、選択肢が少ないというのは、とても苦しいですよね。
その時期に間関係のベースを作ったり、社会を理解したりするので、まさに学校は社会の縮図ですよね。
そこでうまくいかなければ、やはりその先の人生でもその失敗が頭をかすめて怖くなってしまいます。本当に、「その子らしさ」を発揮できる学校を、選べるようになるといいですよね、誰でも平等に。

わたしは自分の想像力を本から得ることができました。これからも自分なりに、体験や現実と密接したレビューを描けたらなと思っておりますので、よろしければまたご覧ください^^いつでもお待ちしております!

mayutochibu9さんのコメント
2020/08/20

コメントありがとうございます。
有意義な読書をしてますね。
また、折に触れて、拝見させてください。
また、よろしくお願いします。

もみのきさんのコメント
2020/09/29

私も一気に読み進めました。

学校は学ぶところですが、感覚的には人間関係が大きいですよね。本当に話してみたい子とはなかなか話せなかったですし、グループというのがあんまり好きではなかったです。

辛さのわかるきたじま先生のような接し方までを学校の先生に求めるのは酷なのかな。。

naonaonao16gさんのコメント
2020/10/01

もみのきさん

こんにちは^^
コメントありがとうございます!

わたしも、学校での思い出といえば行事や学習ではなく、人間関係の苦いものの方が多いです…
グループ、わたしもあれは本当に嫌でした。時折あった「好きな人同士」みたいな区分け、死ぬほど嫌でしたね。取り残されるタイプだったので。

決して悪い先生ばかりではないんですけどね…多忙を極めて余裕がないんだろうなと、そんな風に捉えています。
そもそも一人で多くの生徒を担当する、というのがもう、社会と合っていないのかもしれないですよね。

まみたんさんのコメント
2024/04/05

naonaonao16gさん  こんばんは

素敵な感想読ませていただきました。
鏡の弧城の感想を見ていたら、naonaonao16gさんがでてきました。 いいねが沢山ついていたのでどの様な内容なんだろうと思い、拝見させていただきました。素晴らしいお仕事をされていますね。naonaonao16gさんはイジメの事についてとても真剣に考えていらっしゃるので、凄いなと思いました。
中学生といえど、成長している時期ですので、友達関係が酷くなってきたり、グループから仲間外れにしたりそれが、イジメに発展する可能性があるんじゃないかと思います。
最後に、naonannao16gさん
今のお仕事頑張って下さい。

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