人間の生態ってすごくてさ。
この作品に出会って、読んで、心からぶわっと、何かがあふれ出す、その瞬間を楽しみにしていた。
やっと読めた。
特に中盤以降、物語の展開とかがみの孤城の彼らへの思いが止まらなくなってしまって。
通勤電車の中で、寝る前のベッドの中で、浮き上がってくる鳥肌を抑えることが出来ずに夢中になって読んでいた。
それなのに。
人間て、眠くなるのね。
おかげで思っていたより、読了まで時間がかかってしまいました。
疲れたら「疲れた」って、身体はサインを出してくれる。
そう、それは、かがみの孤城の彼らも同じこと。彼らもきっと、サインを出していた。大人は、彼らの発する、そのサインに気付き、一緒に向き合ってあげないといけない。
辻村さんの作品は、「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」や「朝が来る」などの社会派よりの作品しか読んだことがなくて、彼女が得意とするSFやファンタジーの作品は、今まで触れてきたことがなかった。この作品は、学校に行けなくなってしまった主人公の女の子が、不思議な体験を通して現実とどう向き合っていくか、ということを描いた作品なのだけれど、その「不思議な体験」の中にSFやファンタジーといった要素が含まれていて、さらに「不登校」という現在の社会的な課題(という言い方がふさわしいかどうかはわからないけれど)に注目しているという点で、辻村作品の神髄ともいえるような作品なのかなと、そんな風に感じました。
少しばかり自分の話をすると。
以前、子どもの虐待対応の仕事をしていて、その時に学校へ行けなかった子ってたくさんいた。そこには少なからず虐待が関係していて、でも虐待が解決してじゃあその子がすぐ学校(もしくはそれに代替する場所)に行けるかと言われると、そんな簡単じゃない。そこで、学校と連携して、その子が学校へ行けるような支援を開始する。でも、虐待対応を本職としていると、それがなくなった時点で、その子とはもう関われなくなってしまう。一生懸命関係を築いても、学校へ引き継いで、わたしは新たな虐待対応をする。これは結構きつかった。関係を築いていく中で、学校へ行けなくても、「naonaonao16gとの面談は続けたい」、そんな風に言ってくれる子を、わたしは放っておけなかった。だから、転職した。虐待、とまでいかなくても、学校へ行けない、でもSOSは出している、そういう子を”継続的に”サポートするために。
今、わたしがしている仕事はざっくり言うと「不登校支援」というようなもので、全日制の高校とは違う選択をした子たちと関わっている。わたしは別に、学校は行っても行かなくてもいいと思っているけれど、彼らの居場所となるところがあればいいな、と思っている。勉強も絶対にしないといけないわけじゃないと思っているけれど、勉強はやれば力になるし、「できない」を「できる」にする、「できた」という自信をつけられるものだから、自信をつける一つの道具としてはとても有力なものだと思っている。その点で、学校の可能性ってまだまだあると思っている。
前職と、わたし自身が学校が大嫌いだったせいか、新しい子が入学してくるたびに、「この子に何があったんだろう」と思ってしまう。「何かがあったから学校へ行けない」と思ってしまう自分がいる。だけど、そうじゃない。選択の幅を広げたい子だっているし、海外の生活が長かった子もいるし、単純に「普通の高校が合わない」という子だっている。
わたしも、みんなが普通にしている「会社員」が合わなさすぎて、早くフリーランスとして自立したいものだと思っている。でもすぐにはできなくて、ずるがしこく、会社のいいとこだけつまみ食いして生きている。大人になれば、そういう選択肢を自分でとれる。でも、子どもの世界ってそうじゃない。「学校にいけない」ただそれだけで、世界からつまみ出されてしまったような感覚に陥る。ダメ人間の烙印を押されたような。でもそうじゃない。本当にそうじゃない。話を聴いて、「大丈夫」「一緒に考えよう」と伝える大人が近くにいるだけで、生きていけると思うんだ。うまくいかなくなったら戻れる居場所があること、相談できる大人がいること、たったそれだけ。それなのに、それって本当に、本っっっ当に大変なことなんだよな。だから、今目の前にいる、今関わっている子たちには、「困ったらいつでも戻ってきていいよ」「一緒に考えよう」と、伝えたい。
でも同時に。全員が何かに困っているわけじゃない。わたしの場合、それもひとつ、肝に銘じておかないと。
この作品では中学生が主人公で、その子が学校へ行けない、という視点から「生きづらさ」を描いている。でも、高校やその後の進路で、不登校とは別の形で「生きづらさ」って出てくることもあると思う。この作品全体の思いと、ちりばめられた言葉の数々を思うと、そんな時にも、助けになってくれる作品だと思います。大人も子どもも読みやすい筆致で描かれているので、主人公と同じ中学生のみならず、小学生だって読めると思う。さすが、本屋大賞受賞作品!!
生きている人みんなが、少しでも幸福な気持ちになれますように。
- 感想投稿日 : 2020年8月10日
- 読了日 : 2020年8月8日
- 本棚登録日 : 2020年8月10日
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