人新世の「資本論」 (集英社新書)

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  • 集英社 (2020年9月17日発売)
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「人新世」とは、人が原因で、経済成長が困難になり、経済格差が拡大し、環境問題も深刻化している時代のこと。

どのように「脱成長」すべきかを論じた本だ。
真剣に地球環境を守ることを最優先に活動せよ!という主張の本でもある。
多くの人が読んで高評価し、ベストセラーになったことを嬉しく思う。

私も長年「経済成長」ありきという思想から脱却すべきと考えていたので、本書の主張はすんなりと支持できる。

著者の主張どおりに世の中が動けばかなりの改善が見込めると思うが、
各地で戦争が起きたり、金にまみれた自己保身が最優先の政治や企業活動を目の当たりにしていると、
人の思考や行動は簡単には変えられないという現実を身に染みて感じる。

「脱成長」などとのたまう人は、貧困層の苦しみを知らない金持ちだからだという反応がある。
では、資本主義のもと「経済成長」して先進国となった社会で過ごす大多数の人が依然として「貧しい」のはなぜなのか?

「脱成長」が嫌われるのは、資本主義をベースに考えているからだ。
資本主義の元では「脱成長」は「停滞」「衰退」という否定的なイメージがつきまとう。

だが、資本主義の収奪の対象は、労働力と地球環境全体だ。
資本主義のシステムで経済成長を目指せば、環境が危機的状況に陥るのは自明だ。

気候変動対策をないがしろにすることを正当化するのが資本主義の経済理論だ。

「環境に優しい恒久的な経済成長」というスローガンに酔いしれている政治家たちを批判しているグレタ・トゥーンベリさん。陰ながら応援している。
有限な世界において、いつまでも成長が続くわけがない。

急いで資本主義に代わるシステムを準備しなくてはならない。
なのに目先の利益しか考えられず、「経済成長」を続けて豊かになることが正しい判断だと思い込んでいる。
「災難は、我が亡き後に来たれ!」「自分さえ逃げきれればよい」という少数の政治家や資産家が世の中の悪化を推進している。

SDGsですら「持続可能な経済成長」と結び付け、儲けるチャンスとして利用しようとしている。

経済成長を目指す限り、気温上昇は止められない。
地球環境の破壊を止めるには、成長を諦め経済規模を縮小するしかない。

二酸化炭素の排出量を見ると、中国が突出している。
現在の気温上昇の諸悪の根源は中国だと言う人は多い。
だが、日本もアメリカも欧州も、中国に生産を依頼した製品を大量に消費している。

再生可能エネルギーの利用も増えているが、化石燃料は減るどころか急激に増え続けている。

世界の富裕層トップ10%が、二酸化炭素排出量の半分に責任があるという。
けしからんと思うが、日本人のほとんどはトップ20%に入っており、大勢がトップ10%に入っている。
我々自身が気候危機を作り出している当事者なので、生活様式を変えないと問題解決はしないということだ。

「経済成長」を前提とした計画は、「豊かな暮らし」という善意が敷き詰められており気持ちいいが「絶滅への道」なのである。

本書は「脱成長」を目指せという主張をしている。
どのような「脱成長」がいいかを考えている。

コロナ禍では、イザというときに政府に頼ろうとしても助けてくれないことを学んだ。
儲けの薄いマスクや消毒液は、中国に作らせていたため、日本では手に入らなかった。

必要とする時にマスクすら十分に作れない社会構造になっていた日本。
贅沢品でなく"使用価値"を重視せよ。
必要な物の自給率を高めよう。
消費主義をやめよう。

金儲けのためだけの意味のない仕事は減らすべきだ。
資本主義の元での効率化は、「労働からの開放」をもたらさず「失業の脅威」となる。
生産性向上のオートメーション化はエネルギー消費にも繋がっている。

著者の主張するエッセンシャルワークの重視には大賛成だ。
政治家の答弁書を作る官僚の仕事などは無くてもいい無駄な仕事だ。
国会で答弁を聞いている政治家は無意味なので寝ているじゃないか。

今の日本は、ケア労働や保育士や教師などの機械化が困難な労働は、生産性が低く高コストとみなされている。
投資銀行やファイナンシャルプランナーなど、使用価値をほとんど生み出さない無くてもいい仕事が溢れている。
労働に対する対価の基準がおかしいと感じる。

現在の都市の姿も問題だらけだ。
大量のエネルギーと資源を浪費する生活は持続可能ではない。
恒常的な成長と利潤獲得のための競争を煽る経済システムからの脱却を目指さなくてはいけない。
しかし、我々は資本主義が生み出した社会にどっぷりとつかって、それに慣れ切っている。

政治家だけを責めてもしょうがない。
政治家は次の選挙までのことしか考えられないからだ。
だから、民主主義も変えていかなくてはいけない。

よく、1%の超富裕層と99%のその他の人々なんて言われるが、
99%側の我々の無関心さが、1%の富裕層が勝手にルールを変え、自分らの利害追求をしやすいような社会の仕組みを作ってしまった。

だが、3.5%の人々が本気で取り組むと社会変革は可能だと言う。
日本だと430万人が3.5%にあたる。
私もこの3.5%に含まれる何かに貢献できるだろうか。

まとまりのない、長文のレビューになってしまったが、うまく要約できないので勘弁してください。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・社会
感想投稿日 : 2024年2月11日
読了日 : 2024年2月11日
本棚登録日 : 2024年1月8日

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