スター・レッド (1) (小学館文庫 はA 2)

著者 :
  • 小学館 (1995年4月15日発売)
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原作があった『百億千億』とは真逆に、『スター・レッド』は主人公と設定だけを考えて結末を決めずに描き始めたそうだ。
脇役で出したエルグが物語をうまくリードしてくれたと振り返っている。

主人公のスター・レッドは、超能力を持った火星人の少女。
名前は星(セイ)で、白髪で赤目…遺伝子突然変異で生まれてきている。
ホワイトタイガーなど地球上の生物でもよく見られるアルビノというやつだ。
実は視力がないのだが、目ではなく透視能力で世の中を見ている。
他にも、読唇術、瞬間移動、念動力など多種多様な超能力を持っている。

萩尾望都さんの描く少女は、世間(男目線の文化)が暗黙のうちに要求する「女性らしさ」を拒否している。
近年ではジェンダーレスとかジェンダーフリーなどの議論が活発になり、法改正を含めて社会常識が変わりつつあるが、45年も前からこのテーマと対峙しているのだ。
生物的に否定できない「妊娠」「出産」の役割分担すらぶち壊して、本作では男性だったヨダカが子供を産む。

『百億千億』は少年マンガ雑誌に掲載されたが、『スター・レッド』は少女コミックで連載された。
絵柄だけ見ると美男美女ばかりなので、当時は(今も?)少年向けの雑誌には不向きだと判断したのだろうが、内容は少女向けというわけでもない。

本作品の驚きの一つは、物語の途中で主人公の星(セイ)が死んでしまうことだ。
だが、萩尾望都さんの頭の中には、そうすることで生まれるストーリー展開が出来上がっていたようだ。
荘厳な宇宙とそこで生きる生命の種の存続について考えさせられるエンディングが素晴らしかった。

萩尾望都さんの作品を3冊読んで、いったん休止にするつもりだったが、『マージナル』も読もうかという気持ちが湧いてきた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: *萩尾望都
感想投稿日 : 2023年7月9日
読了日 : 2023年7月9日
本棚登録日 : 2023年6月26日

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