百まいのドレス

  • 岩波書店 (2006年11月10日発売)
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感想 : 68
5

何を今更の児童書の名作。
1954年「百まいのきもの」というタイトルで石井桃子さんの訳で出されたものを、再訳して2006年に世に出したのがこちら。
石井桃子さんはその年100歳。どのような思いを込められたか後書きで語られている。
私と同じく、子ども時代に旧訳の方を読んだという方が多いかもしれない。
時の流れで「きもの」は「ドレス」になったが、言葉の優しさと話の切実さは変わらない。

学校内で起こる虐めを、つい加担してしまった少女の目線で語っている。
虐めのターゲットは、ポーランド移民のワンダという女の子。
みすぼらしく目立たないワンダが「家に百枚のドレスがある」と発言したことで、女の子たちの執拗な虐めが始まる。
過激な表現こそないが、どんな動機で虐めが始まったか、その歪んだ理屈や心理と結末まで、丁寧に描かれている。
マデラインという主人公の女の子は、傍で見ていて何も言えず何も出来なかった自分を、ワンダが去った後で強く反省してこう決心する。
「黙って見てなんかいないこと」
一筋の希望を感じるラストだが、ことはそう簡単ではない。
虐めの張本人だったペギーという少女はあっけらかんとしているからだ。

人の心の中には、誰かを虐げて喜ぶ部分があるのだろうか。
デフォルトとしてあるのならば、ユーザーは変更して防がなければならない。
ではどうすれば?私は考えずにいられない。
教育にそれがあると信じるひとは、このような本を読んで話し合ったりするのだろう。
だが現実には、罪悪感のかけらもない人というのは存在する。
その見分け方と対処の仕方を説いた本も数多い。
「相手の身になって考えろ」と言われても、未経験のことは想像さえ出来ないものだ。
教育の最大の課題はそこかもしれない。
人を傷つける大人になってほしいなどとは、誰しも思わないだろうから。

戦後9年という頃に、このような作品が出ていたということに、あらためて驚いてしまう。
もしかしたら自分も知らずにやっていたかもしれないと、ふと自らを振り返ってしまう。
胸がざわつく話のようだが、虐められた側が手を差し伸べるラストは涙が滲むほど爽やかだ。
ちなみに、ワンダの「百枚のドレス」は本当の話で、後半綺麗な挿絵であらわれる。
児童書のカテゴリーに入るが大人にもおすすめ。
子どもたちには、マデラインのメッセージがしっかり伝わることを願う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 児童書
感想投稿日 : 2019年7月11日
読了日 : 2019年7月8日
本棚登録日 : 2019年7月11日

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