今でこそ健康の敵のように扱われている砂糖だが、かつては世界中の誰からも好まれ、広く取引される代表的な「世界商品」だった。
この「世界商品」を独り占めできれば大きな利益があげられる。
世界の歴史は、そのときどきの「世界商品」をどの国が握るかという競争の歴史として展開してきた。
さすがの岩波ジュニア。読みやすさと内容の深さが見事に共存している。
屈指の名著といわれる本書を、なんと8か月も待った。
コロナ禍のさなか、中高生の間で読み継がれたらしい。
授業ではピンポイントで覚えるばかりの歴史用語が、この一冊で相互に繋がる快感を想像するとこちらも何やら嬉しくなる。
大航海時代、コロンブスの交換、植民地、プランテーション、奴隷制度、三角貿易、産業革命、ボストン・ティーパーティー事件。。
さとうきびの生産が植民地化に繋がったのは何故か。
アフリカ大陸の国々が現在に至るまで開発途上であるのは何故か。
産業革命で「イギリス風朝食」が成立したわけは。
ロンドンに喫茶店がないわけは。
砂糖というひとつのモノを通じて世界史を見ていくと、これまで漠然としていた疑問が霧が晴れるように解けていく。
私たちの生きる世界がなぜ今日のような姿なのか、砂糖の歴史が教えてくれる。
17世紀に広まった英国上流階級のティー・パーティは、文化サロンのように理解してきたがそれでは一面的過ぎた。
「砂糖のあるところに奴隷あり」で、カリブ海のイギリス領植民地は白人6万人足らず、かたや黒人奴隷は46万人もひしめいていた。
過酷な労働で短命だった奴隷たちは、年間3万4千人もアフリカから輸入されていたのだ。
「世界商品」として拡大すればするほど、上流階級のティー・パーティーが華やかであればあるほど、(文化が次々に生まれれば生まれるほど)彼らは休む間もなく働き続けていた。
飽食の時代と言われて久しく、カロリーを抑える方法ばかりに関心がいく。
その一方で、飢餓に苦しむひとたちも確実に存在する。
この世界はどこかバランスがおかしい。
砂糖が高級品だった頃は、もてなしの一端として料理に大量に使用されていた。
歴史をたどればそもそもは薬用として珍重されていたのだ。
しかし、良い面があれば悪い面も必ずある。
「世界商品」の争奪戦によって残された爪痕までは消えていない。
ハイチの「ティザン」という昔話を、素話にして語ることがある。
語る前に地図でハイチの場所を指して、1834年に南北アメリカ史上初の独立国であることを説明する。独立の際フランスから多額の賠償金を要求された話をすると、殆どの場合「酷いな!」という声があがる。
支配する側はいつも、現地から搾取することしか考えなかった。
日本人のように学校や教会を建て、水道や道路をつくり、商店街や病院や警察や消防署を設けて、みんなが豊かに暮らせるようにしたわけではない。
独立を認めてやるからお金を払えというのが世界の常識で、今の価値観で歴史を見たらダメだよと念を押す。賠償金を払い終えた後も、ハイチは貧しい。
すべての歴史は現代史だなと、そんな時考える。
- 感想投稿日 : 2020年10月25日
- 読了日 : 2020年10月25日
- 本棚登録日 : 2020年10月25日
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