八月の博物館 (角川文庫 せ 4-5)

著者 :
  • KADOKAWA (2003年6月25日発売)
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感想 : 62
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この『八月の博物館』にはある重大な秘密が隠されています。その秘密が、私達がこの本を開かなければいけない、そしてラストまで読み終わらなければいけない理由です。

その秘密をこの物語の中に見つけた時、私もこの冒険の中にいること、登場人物であること、この物語に組み込まれた存在であることを知り、ぞくぞくしました。その秘密は読者になることでしかわかりえないものでした。
この『物語』は「書かれること」「読まれること」そして「読むこと」ではじめて「物語」になります。そしてそのために、この『八月の博物館』は書かれました。

夏の恐竜展に出かけた小説家は展示されたフーコーの振り子に強烈な既視感に襲われ、少年時代のふしぎな夏を思い出します。

小学校6年生の夏休みを過ごす小説家を夢見る亨はある日ふしぎな博物館と出会います。ふしぎな少女美宇と今にも動き出しそうな恐竜の骨、目の前を通り過ぎる魚群、何もかもがリアルに迫る展示物を、扉から扉、博物館から博物館、美術館から美術館、そして古代の神の化身アピス像をめぐり古代エジプトを駆け巡ります。

そんな少年時代を題材に小説を書き進める小説家は自らの書く小説に重大な秘密を発見します。物語の作為性に疑問を感じ、押し付けの感動を嫌い、現実と物語のはざまで物語を書くことに悩む小説家は物語を書くことによりこの物語の秘密に気付き、自らの役割を果たそうと筆を走らせます。

少年の亨がなぜ博物館にくる運命に至ったのか、そしてなぜ小説家はあの夏を題材に小説を書いたのか、そして『八月の博物館』はなぜ書かれたのか、なぜ読者である私たちは今、本のページをめくり物語を読んでいるのか。『物語』とはなんなのか。

作中小説家はアラジンの名曲になぞらえ、作者と読者は「作者→読者」へ一方通行の感動をあたえるのではなく両者は同じ地平に立ち、同じ世界を見、感じ、感動をわかちあう存在だと語りかけます。飛行機の窓からのぞむ、雲の切れ間から射す太陽。読み手である私達もまた「登場人物」であると思うと、一気に物語が私達に多くのことを語りかけてきます。

ミュージアムは展示品を展示する場です、しかしそれだけではミュージアムは機能しません。ミュージアムは展示場であると同時に、展示品の物語の語り手であり私達はその物語を読んでいます。

とにかく猫!何はなくても猫!ジャック!ジャックかわいいやつめ。ぬこぬこ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年2月6日
読了日 : -
本棚登録日 : 2013年2月6日

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