博多の水炊きみたいな作品。ダシのきいたベースに食感の変化が鮮やかで、ボリュームがあるように思えた具材もすっきりと食べ終えることができた。
イライラは終始するんだけど本当に怒るべきところで怒ることができない人っているよね。明らかな相手の過ちに対して「過ぎたことは仕方がない&拘ることは全方向においていい結果にならない」とか努めて冷静にいうくせして、自分の思い通りにならない些細な事に終始イラっとして不機嫌になっちゃうあたり、愛らしさのない不器用さが主人公にはある。
なんだか睡眠についての描写がやたらと多い気がした。まずもって神経質でワガママっていう設定の時点で快眠に縁のない人種だとは思ったけど、幸せを求めようとする程度には人間的で、伯耆大山の山肌と一体になったかのように朝を迎えるシーンなんか彼の作中ベスト睡眠ではないか(病に倒れただけだが)
にしても時任氏は直子さんに出会えて本当に良かった。彼が「自分で自分のために」引っ張り出し続けた過去の因縁は、人生に苦悩する理由を正当化してくれるいわば呪われた武器のようなもので、その武器によるダメージを一手に引き受けながらもなお寄り添い続けた直子さんの真心が、時任氏の呪いを徐々に解いていってくれたんだろうな。そういう意味で「心から赦した」のは時任氏ではなく直子さんの方だと思うけども。
巻末の解説にもあるけれど、確かにこれは恋愛小説だったなと読み終わって振り返って見てそう感じる。愛を表現できない不器用な男と健気な女性の物語。面白かった。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2018年7月12日
- 読了日 : 2018年7月11日
- 本棚登録日 : 2018年7月11日
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