ダ・フォース 下 (ハーパーBOOKS)

  • ハーパーコリンズ・ ジャパン (2018年3月26日発売)
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本棚登録 : 231
感想 : 28
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こういうのを力業って言うんだろうなあ。主人公は、賄賂を贈り受け取り、押収薬物をかすめ取り、私刑をためらわずに殺人まで犯す悪徳警官。おまけにこいつは街の「キング」を自認する、ヒーロー気取りが鼻について仕方がないヤツなのだ。まあウインズロウなので、お話は面白く、上巻は我慢してつきあってやるかという気持ちだったのだが、あーら不思議、下巻の途中からはいつのまにか、このマローンに肩入れしてハラハラしながら読んでいるではないか。

およそ共感を呼ぶタイプとは言えないこういう主人公を造型し、最終的には感動的なラストへ持って行くというこの離れ業。ウインズロウの凄さをあらためて見せつけられた気がした。むせかえるような熱気がページから立ちのぼり、特に終盤の迫力は圧倒的だ。「本の雑誌」の新刊ガイドで「あまりのかっこよさに身もだえ必至の血みどろ外道ポリス・アクション・ノワールの傑作」と紹介されているが、確かにそうだろうと思う。

しかし、これを「かっこいい」と言い切るのは、私は抵抗がある。読みながらまるでヤクザやマフィアものみたいだなあと思ったが、それらと決定的に違うのは、マローンが権力の側にいることだ。現場はもとより、警察上層部や行政幹部、果ては司法に携わる者にまで深く腐敗ははびこり、何が正義かわからない混沌とした状況の中、自分の体を張って少しでも害悪を取り除こうとしたマローンの生き方には心を揺さぶられるものがある。それでも、悪には悪で対抗するという姿勢を肯定してしまってはいけないんじゃないか。

もちろんウインズロウは単純な暴力礼賛を書いているのではなくて(当然だけど)、どうしようもなくそこに向かって一歩一歩進んで行ってしまう、人間の苦悩を描いている。そこに人を惹きつける力があると思う。それでもやはり私は、同じ米国警察小説で言えば、コナリーの書くボッシュが好きだ。1対1の状況でシリアルキラーを追い詰めながら、ボッシュは引き金をひけなかった。そいつが当然償うべき罪から逃れるかもしれないとわかっていたのに。そのことで苦しみつつ、「自分が戦う相手と同じものになる」ことを拒む姿を断固支持するのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外ミステリ
感想投稿日 : 2018年5月12日
読了日 : 2018年5月12日
本棚登録日 : 2018年5月12日

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コメント 2件

niwatokoさんのコメント
2018/05/14

>悪には悪で対抗するという姿勢を肯定してしまってはいけないんじゃないか。

すごく共感します。警察なのに……っていうのがまたあって。葛藤が詩的にかっこよく描いていても、でも目的の一部にわが子の大学費用も入ってるじゃん、とか思ったりして。そのせいかもうひとつノレませんでした。「犬の力」とか「カルテル」とかほんとにマフィアとかなら心情的に許せる(といっていいのかわからないですが)んですけど。
ボッシュとの比較もわかります! 最近コナリー読んでなかったんですが読みたくなりました。

たまもひさんのコメント
2018/05/14

わーい、niwatokoさん、コメントありがとうございます!お久しぶりです、って言ってもレビューはしょっちゅう見てるんですけど。

>マフィアとかなら心情的に許せる
そうそう!そうなんですよねえ、どういうわけか。ここのレビューで、これは「警察小説」ではなくて「犯罪小説」だと書いている方がいて、その通りだと思いました。そう思って読めば違う受け取り方ができたかも。

「犬の力」「カルテル」に続く新作も出るそうですね。何やかや言いながら、やっぱり読むと思います。ボッシュシリーズも早く出ないかなあ。

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