あらがいがたい力を持ったタイトルだ。ちょっとガツンと来る本を読もうかなというくらいの気持ちで読み始めたのだが、すぐにバシバシと往復びんたをくらった気分になり、背筋を伸ばして読んでいった。本当に気がつくと私たちはざらざらした景色の中にいる。テレビをつければ、決まって誰かが誰かを攻撃している。賛美とバッシングはいつも背中合わせでどちらも過剰だ。いったいいつから日本はこんな国になってしまったのだろう。オウムから、と筆者はいう。集団としての日本人が、他者も自分と同じ人間であるという当たり前の想像力をなくし、ひたすら憎悪をむき出しにすることをためらわなくなったのは、オウム真理教による一連の事件への反応からであると。そうかもしれない。いやおそらくその通りだ。きっかけは何であれ、今の私たちは寛容さをなくした社会に生きている。筆者の言葉を借りれば「泣きたくなる。泣くぞ本当に。」本書は様々な媒体で発表された文章を集めたものだが、そこここに卓見があり、非常に刺激的だ。出版された時点では、筆者の監督したオウム信者を追ったドキュメンタリー「A」「A2」は、商業的には黙殺に使い扱いでビデオ化の目途すらないとあるが、調べてみたらその後ビデオ化され、DVDも出ているようだ。私は聞いたことはあるなあと言うぐらいにしか知らなかった「A」、読み終わってすぐさま注文することにした。タイトルが頭の中でこだましている。つぶやいてみたりする。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
社会・文化評論
- 感想投稿日 : 2010年2月26日
- 読了日 : 2010年2月26日
- 本棚登録日 : 2010年2月26日
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