行きずりの街 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1994年1月28日発売)
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本棚登録 : 1899
感想 : 256
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本屋さんで読む本探していたら目に入ったのがこの本の帯、『91年度このミス第1位』。
ということで手に取ったわけだけど、2週間ほど前の朝日新聞の書評欄によると、私と同じ人間が多いみたいで、この本、売れてるんだって。
おとといの新潮文庫の広告には、梅田の紀伊国屋で第1位だとか。
本って、売る気になれば、昔の本でも売り出すことが出来るということですね。まあ、作品に一定以上のクオリティがある前提でしょうが。
で、この作品、田舎町で塾講師をしていた男が、失踪した教え子を探しに、かつて仕事をしていた東京に再び足を踏み入れたところから始まる物語。
田舎から上京し東京で暮らす、そして訳あって田舎に引っ込んだものがかつて住んでいた東京を歩き回る。
『東京はすでにわたしにとって過去の街となっているにもかかわらず、一方ではどこよりも刺激的で、魅惑的で、官能的であることを少しも失っていなかった』。
東京という街に対する屈折した思いと激しい嫉妬。これは同じような境遇でないと分かりにくいと思うけど、この話のベースにあるのはそういう感傷です。
その上で昔の妻との恋の物語。『男ほど感傷的で、独りよがりで、依頼心が強くて、空想的な思考しか出来ない生きものも少なかった。これではリアリストの女に勝てるわけがない』。
男の人ならこの感じって良く分かりません?例えば、昔の彼女に偶然でも会った時に、こんな思いを持ったことあるとか。
そうした男と女の情念が、微妙にほぐれていく様の描写が、また読ませます。
カテゴリーとしたら冒険小説というかミステリーということなのでしょうし、それはそれで面白いのだけど、それ以上に上に書いたような部分の余韻が残る作品で。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2007年読んだ本
感想投稿日 : 2007年4月29日
読了日 : 2007年4月22日
本棚登録日 : 2007年4月29日

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