凍える牙 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2000年1月28日発売)
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本棚登録 : 4792
感想 : 513
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こちらもこの前TSUTAYAで買った。色んな棚に何冊も置いてあって、値段も100~300円台あった中、安いやつで比較的きれいで出来るだけ版が新しいものを選ぶ。
久しくご無沙汰の音道貴子シリーズだが、短編集ばかり読んでいて肝心のこの本を読んでないままだったのを、少し前の朝日の別刷りに載った『記憶に残る平成の直木賞作品』を見て思い出した次第。
それにしても、初出が1996年というお話、刑事の連絡手段がポケベルというのが時代を感じる。もうすぐ終わる平成だが、年月の長さ以上に生活様式が劇的に変化した時代であったなぁ。

ファミレスで食事をしていた男が突然火だるまになり焼死するという事件を、滝沢と組んで調べを進める貴子さん。
直木賞の選評を読めば、「主人公の男女の刑事の人間関係」とか「主役と狂言回しとをかねた二人組の警官の人間創出」という字句が並び、男性刑事と組んで互角以上に活躍する女性刑事物として先駆的エポックメイキング的作品であったことが知れる。
貴子さんの男も惚れ惚れする格好良さやそれでも失われない女性らしさはこのシリーズの特徴ではあるが、一方、中年男の滝沢との関係を今読むと、その肩肘張った描き方には些かの古めかしさは否めない。
この歳月の中で女性の社会進出や地位向上は遅々としてでも進んだことを踏まえれば、ここでも平成は年月の長さ以上に色々なことが大きく変わった時代であったことを改めて思う。

最初の事件に調べが遅々として進まない中、今度は獣に襲われて死亡する事件が次々と起きるという展開よりも、貴子さんと滝沢のやり取りに字句が割かれるお話は、その肝の部分が古さを感じさせる分、今となっては多分にこの作品の価値を減じているようには感じる。
それでも、終章、バイクでオオカミ犬を追走し追い詰めていく描写など、この作者やこのシリーズらしい抒情に溢れ、エピローグも含めて、この作品の印象を良いものにしている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2019年読んだ本
感想投稿日 : 2019年2月11日
読了日 : 2019年2月10日
本棚登録日 : 2019年2月11日

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