銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫 た 43-1)

著者 :
  • 幻冬舎 (2010年8月5日発売)
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本棚登録 : 3837
感想 : 538
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「駅の名は夜明」を買いに行ったのだが書棚にはなく、代わりにこの本が目につき、激賞されていたレビューがあったことも思い出して買ってみた。

大坂の寒天問屋「井川屋」店主の和助が、貸した金を取り立てに行った伏見で仇討ちの場面に遭遇し、ひとりの少年の命を救うために、天満宮再建に寄進するはずだった取り立てたばかりの銀二貫でその仇討ちを買うところから始まる物語。
舞台は大坂天満に移り、少年は「松吉」と名を改め、士分を捨てて井川屋の丁稚として生きることになるが、しもやけで真っ赤に膨れ上がり指のあちこちにあかぎれが出来た手が、大人も音を上げる厳しい寒天場での1か月の修行に耐えたことを示す場面でまずじんわり。
そこからは小さな寒天問屋の日常とそこに奉公する人や周囲の人々が描かれ、読んでいるこちらは何度も温かい感情に満たされる。
和助や番頭の善次郎が松吉に叩き込む商人としての心得や利他の心、同じ丁稚の梅吉の松吉や店に対する心情、料理屋の娘・真帆との交情、火事で亡くなった真帆の父・嘉平の最後の言葉を頼りに松吉が挑む寒天づくり…、ひとつひとつ挙げていたらきりがないので丸めたが、章立てごとに描かれるそうした場面に喝采したりほっこりしたりしんみりしたりじんときたり。
物語の根底には何度も飢饉や火事に見舞われながらその度に立ち上がる人々の逞しさや心の強さがあり、描かれる温かさはその信念や情念の強さに裏打ちされた温かさだけにより心に沁みた。

大阪天満宮、天神橋や天満橋に八軒家、高槻に枚方などよく知っているところが描かれ、それだけでも楽しかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2023年読んだ本
感想投稿日 : 2023年1月21日
読了日 : 2023年1月20日
本棚登録日 : 2023年1月21日

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