前作を読み終えた時、川越に行ってみたいと思ったが、先月の3連休に行ってきた。
大宮から川越線で行ったのだが、単線の電車が街に入るまでは田舎の風景が広がる。
37℃もある暑い日で風情を楽しむどころではなく、照りつける日差しの中とにかく事前に調べたお店などに寄るだけで、少し勿体なかった。
弓子さんの印刷所はどのあたりにあるのだろうかなどと思案したが、この本を読むと、『仲町交差点を左に曲がり、右側の細い路地にはいる。醤油屋さんの建物を通り過ぎ、左に曲がる』とあるので、近くを通っていたわけだ。
本作2話目では川越の色んなところが紹介されており、全てに行ったわけではないが、それでも町の情景が目に浮かぶのはなかなか嬉し。
今回もまた引き寄せられるように三日月堂と関わるようになった人たちのお話だが、前の巻に出てきた人たちもちょとずつ登場して色を添える。
第1話(かつての恋愛の失敗を引きずったまま好きな女性が出来ても踏み出すことが出来ない三十路の会社員)、第2話(就活を目前に自分の良さに自信が持てない女子学生)も良かったが、今回は3つ目のお話、壮絶な人生を生きてきてそれでもまだ人生に迷う訳ありの古書店主の生き様と、その店主の夢が三日月堂の夢につながる最終話が圧巻。
“人は、はっきり説明できるような役割なんてなくても、生きていいんだよ、って言うんです。その人がいることで助かっている人は必ずいるんだ、って ”
死に向かい合う心情が、病に蝕まれた当人とそれを見守るしかない周囲の人々のそれぞれの視点から描かれ、胸が締め付けられる思いがする。
死ぬことは怖い、いつかやってくる、それを前提にしながら今を生きる。
“でも、仕事こそ、人の生きる道ですよ”“たとえ給料が減ったって、僕はいい。たった一度の人生なんだから、悔いのないように生きたい”
三日月堂とそこに集まる人々のそれぞれのエピソードや思いに触れて、人生の中で大きな時間を占めることになる仕事に対する姿勢や取組み方を考えさせられ、心の中の自分と今一度向き合うことになった。
“夜ひとりで版を組んでいたときのことを思い出す。ひとりで活字の銀河に浮かび、たゆたっている。それが自分の本質のような気がした ”
このシリーズ、これで完結ということだが、盛岡や川越という魅力的な街を訪れるきっかけにもなり、全4冊、どのお話を読んでも、何ということもない描写にさわさわと心動かされるような心地良い文章で綴られた、とても良いお話ばかりであった。
- 感想投稿日 : 2018年8月15日
- 読了日 : 2018年8月8日
- 本棚登録日 : 2018年8月15日
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