ヴェルーヴェン三部作コンプリート。……なんだけど、残念なことに前作たちを凌ぐ衝撃がなかった。
妻イレーヌを殺されて五年、ようやく立ち直ったカミーユに新たな出会いが訪れる。そのアンヌが強盗事件に巻き込まれて重症を負う。愛する人を二度と亡くしたくない想いから、職場にはアンヌのことを隠し、私情に駆られて逸脱した捜査をするカミーユ。その行動がカミーユ自身を危機に追い込んでいく中、アンヌを執拗に狙う犯人の目的とはーー
犯人がアンヌを執拗に襲撃するのは顔を見られたからと思っていたのが、その裏に驚きの目的があって、カミーユはまんまとやつの狙い通り行動することになる。それがわかってきた頃には読むのは止まらなくなるのだが、前作たちのような緻密な伏線はなく(なかったよね?)、特に犯人の正体には後出しジャンケン感が否めない。まあ、でも、全ては作中でカミーユが言うように「おれ自身の問題がこの事件になったんだ」の通りである。そしてカミーユはしっかりと自分でけりをつける。なので一応のカタルシスはあるが、何もかも奪われたカミーユがイレーヌとの想い出の詰まった(しかし死亡場所でもある)アトリエのある家に帰るラストはとても重たかった。もう立ち直れないんじゃないか、この人は。冗談じゃなくルイを養子にして、そばにいてもらえ(笑)。
あいかわらず映像が目に見えるような描写力なので、一度波に乗ってしまえば読み進めるんだけど、面白かったかというと微妙。でも読み終わってみれば重厚なノワールにも思える。ただ、地の文(カミーユ視線)と一人称(犯人視線)が頻繁に交代するのは慣れるまで辛い。編集が字体を変えるとかわかりやすくして欲しかった。海外小説読み慣れた自分でも混乱したので、これを初海外小説に選ぶ(人はいないと思うが)とまず挫折する気がする。
- 感想投稿日 : 2024年1月9日
- 読了日 : 2024年1月9日
- 本棚登録日 : 2024年1月9日
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