2016年、22冊目です。
少年時の出来事を綴った7つの短篇で構成された小説です。
物語の綴られている場所が、中国地方の街々や中国山地であり、
とても親近感を持ちました。著者の伊集院氏は、山口県防府で高校時代までを
過ごされており、描かれている土地の感覚は著者自身の肌感覚だと思う。
大人になった男の誰にでも、刻まれている少年時代の自らの譜がある。
少年譜、それは形を変えることなく自分の中にあり続け、時に深く沈み今の自分と、
何の繋がりも無いように感じられる。
しかし、「自分」という人生の物語のエピローグがそこにはあり、
人生の主人公である自分自身が形づくられる時間がそこにある。
美しいというより、強い光ではないが、心の中で特別の色を放っている。
最初の「少年譜 笛の音」を読み終えた時、涙がでてきました。
その理由は、自分では分かっていますが、人には説明できない。
前後して読んでいた「涙腺崩壊」と帯に書かれていた推理小説が安っぽい
物語に思えてしまいました。
この短篇集の最後に収められている「親方と神様」は、以前に読んだ記憶があるのですが、この短編集以外には収録されていないようで、不思議な感じです。
中国地方の”たたら製鉄”が物語に組み込まれており、郷愁ともに描かれているこの作品は、絶品な少年譜だと思います。
あの強面の伊集院静の筆からこんな精緻な抒情的な物語が紡がれるのだから文学は凄い(恐ろしい?)いくつかの物語の根底に共通していることは、一途に屈折することなく、精励する者に訪れるのが、幸せだということです。
おわり
- 感想投稿日 : 2016年4月5日
- 読了日 : 2016年4月5日
- 本棚登録日 : 2016年4月5日
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