雁の寺・越前竹人形 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1969年3月24日発売)
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本棚登録 : 403
感想 : 43
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2つの収録作ともに元祖マザコン小説と解釈するのが一番しっくりする。

「雁の寺」は、寺で修行する小坊主・慈念が和尚を殺す完全犯罪を描いた内容。だが、ストーリーの主眼はおそらくここになく、テーマは慈念の復讐と母性への憧憬だと思う。偉そうに仏の道を説きながら寺の奥で愛人の里子と嬌態に耽る慈海和尚の俗物性への復讐、そしていつしか里子に感じた母性への独占欲が犯行動機だろう。これが物語の最後で襖絵の母雁をむしり取って慈念が失踪する描写へとなるわけだが、どうにも犯行トリックが中学生ほどの年端の子どもにこんなことが可能?と思える突拍子もないところがあり、おいおい・・、となかなか物語に入り込めなかった。

「越前竹人形」は聖母信仰を描いたものと言われているが、女性にとってたまったもんじゃない話だろう。竹細工師の喜助が結婚した相手(芦原遊廓の娼妓・玉枝)は死に別れた母親似の女性で、であるがゆえいつまで経っても妻と床を共にしない。しかし、一度の過ちで玉枝は妊娠、そして流産し、死んでしまう。喜助は玉枝の死後、竹細工の制作を止め、自ら命を絶ってしまう。谷崎潤一郎が本作を激賞したというが、耽美派の作家が好きな人は気に入るのではないだろうか。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2016年12月19日
本棚登録日 : 2014年12月12日

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