革命前夜

著者 :
  • 文藝春秋 (2015年3月27日発売)
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バッハの平均律をこよなく愛し、バッハの活躍した地でピアノをじっくり学ぼうと、あえて東ドイツのドレスデンに留学を果たした眞山柊史(シュウ)。柊史の周りで起こる数々の事件。ベルリンの壁崩壊直前のドレスデン(やライプツィヒ)を舞台として、学友のヴェンツェルやイェンツ、李、ニェット、そして想いを寄せるオルガン奏者クリスタ、父親の旧友の親族ダイメル家などと織り成す、壮大な歴史ドラマ。

恋愛あり、音楽性についての挫折や苦悩あり、市民運動(革命運動)あり、シュタージとその協力者による密告あり(密告社会東ドイツでは、味方か敵かの二分法でしか生きていけないという現実!)、亡命未遂事件(不倫相手と亡命しようとする妻を夫が密告、娘が家出して柊史の元へ、という衝撃)に、天才ヴァイオリニストヴェンツェルの殺人未遂事件あり(この部分はミステリー仕立て)、ととにかく盛りだくさんな内容。

歴史的伝統を持ちながらも、経済的荒廃の中で灰色にくすんだドレスデンの街、燻る市民の不満と革命に向けて盛り上がる熱気、そして街に根付くクラシック音楽の雅な音色、これらがミックスされた味わい深い雰囲気を満喫味することできた。

また、ピアノ一筋で世間知らず、性格は内向的で周りに流されがちな(それでいて天の邪鬼なところのある)柊史が、才能ある学友に圧倒され、美しい女性に心引かれ、ダイメル家の亡命未遂事件に巻き込まれ、ヴェンツェルの殺人未遂事件に遭遇し、クリスタの亡命を手助けし、と次々に起こる事件を通して社会の裏側を知り、精神的・肉体的な危機を乗り越えて人間的に大きく成長していく姿も印象的だった。

読み応え十分な作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(その他)
感想投稿日 : 2021年6月22日
読了日 : 2021年6月22日
本棚登録日 : 2021年6月20日

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