感染症の日本史 (文春新書 1279)

著者 :
  • 文藝春秋 (2020年9月18日発売)
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感想 : 60
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日本における感染症(疫病)に関する史実を纏めたタイムリーな書。

著者は、歴史から学べ(歴史学にはそれだけ学問的価値がある)と繰り返し書いているし、所々に、現在の新型コロナウイルス感染対策への批判が顔を出している。本書、この辺りがちょっとうざったかったが、幾つか気付かされることもあって、読んでいて参考になった。

日本における天皇制や伊勢祭祀の確立には、疫病が深く関わっているとのこと。崇神天皇の御代に国民の大半が大陸からもたらされた疫病で死んでしまったのだ。この疫病への対処が大和王権確立に繋がったという。

幕末にも、異国から持ち込まれた麻疹が大流行し、このパンデミックに遭遇した孝明天皇は、(元々攘夷論者ではあったが)「異国は日本を害する」との思いを強くしたようだ。ペリー艦隊が持ち込んだコレラの流行と合わせ、「攘夷思想の背景には「西洋=病原菌」とみる状況があり、これが日本史を動かすエネルギーになった」面があるのだ!

この他、聖武天皇による奈良の大仏建立も、天然痘の鎮静化を祈願したものだった。そもそも、今でも日常的に使われている「疫病神」という言葉に、我々が太古から日常的に疫病リスクに晒され続けてきたことが表されている。

大正時代、日本を3回に分けて襲ったスペイン・インフルエンザについては、著者の恩師、速水融(あきら)氏の著書のお陰で感染規模や致死率、政府や市井の人々の対応の記録がかなり詳細に分かってきているという。スペイン・インフルエンザの世界的流行当時の記録は、著者が言うように、確かに今回の新型コロナウイルス感染症対策の参考になりそうだ。

本書で面白かったのは、江戸時代の元禄辺りを境にして、日本社会に「先進国化の萌芽」とも呼べる大きな変化があったらしいこと。著者によれば、この時期から、神仏や幽霊、妖怪を本気で信じなくなった(科学的、合理的な思考が徐々に根づいていった)のだという。

最終章では、著者の恩師である歴史人口学者、速水融(あきら)氏の業績が紹介されている。その著書「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」、読んでみたくなった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本史
感想投稿日 : 2020年10月4日
読了日 : 2020年10月4日
本棚登録日 : 2020年10月3日

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