「鬼畜」の家:わが子を殺す親たち

著者 :
  • 新潮社 (2016年8月18日発売)
4.00
  • (53)
  • (94)
  • (36)
  • (7)
  • (1)
本棚登録 : 666
感想 : 83

『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』を読んだ。
著者は、ノンフィクション作家の石井光太氏である。石井氏は、大学卒業後にアジアやイスラム圏の貧困をテーマに多くの意欲的なノンフィクションを発表してその名を轟かせた。その後、東日本大震災の被災者を描いた『遺体』は大きな話題を呼び映画化もされた。
今や押しも押されぬ日本の若手ノンフィクション作家の第一人者である。
ぼくは、初期作品、中でも『レンタル・チャイルド』には大変な感銘を受けた一人だ。
フィクションの手法を取り入れ、まるで波乱に富んだ小説のように描かれたその作風には少なからず批判もあったようだが、ぼくにとってそれまでに読んできた本の中で最も刺激的な一冊だった。
ノンフィクション作家への転身を図ったわけではないが、数年前には新宿の朝日カルチャーセンターで石井氏が講師を務めていたノンフィクション講座を受けたこともある。石井氏は、ある意味ぼくの師でもあるのだ。

そんな石井氏が今回スポットを当てたのは<幼児虐待をする親>だ。
日頃、ニュースでは頻繁に幼児虐待事件が報道されている。それらを観る時、我々は<なんて酷い親だ><理解出来ない><狂ってる>などを嘆息することが多い。実際に酷い親であることに間違いはないのだが、そこ至る経緯にまで想いを巡らすことは少ない。
石井氏は、この本の中で比較的新しい3つの事件に絞り、虐待する親たち、さらにはその両親や祖父母にまで遡りその生育家庭から、事件の起因を鋭くあぶり出していく。

石井氏のノンフィクションは、五感を刺激する描写が多い。
視覚だけでなく嗅覚や触覚を刺激する描写は、貧困や虐待などを描くことの多い石井氏の本では往々にしてグロテスクであったりして、思わず目を背けたくなるようなこともある。だが、その生々しさゆえに読者はリアルに痛みを感じたり、見逃しがちな小さな美しさを感じ取ることが出来るのだ。

本書の中で描かれる3つケースは、どれも同情には値しない残忍な事件ではあるが、その虐待を生み出す要因には少なからず納得出来る部分もあった。どれも自身が育てられた環境に何かしらの大きな問題を抱えているのだ。取り分け印象に残ったのは、ケース1で描かれる「厚木市幼児餓死白骨化事件」だ。
多忙を理由に殆ど家に帰らない父親と激しい妄想に苛まれる統合失調症の母親のもとに育った犯人。その生育過程を読み進めていくうちに、これではまともな親にはなるのは困難だろうな、という諦めにも似た感情が湧き上がる。親になってはいけない人がいる、というのは残念ながら確かなようだ。ケース1で逮捕された父親は、もっとフツウの家庭に生まれてさえいれば、或いは親にさえならなければ犯罪者にはならなかったはずだ。

本書に救いや癒やしはない。
それでも目を背けてはならない現実が確かな描写によって描かれた一冊であった。
http://nozo-n.blogspot.jp/2016/10/blog-post_14.html

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2016年10月18日
読了日 : 2016年10月11日
本棚登録日 : 2016年10月3日

みんなの感想をみる

ツイートする