目の見えない人は世界をどう見ているのか (光文社新書)

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  • 光文社 (2015年4月20日発売)
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「視覚障害の人は周囲の環境をどのように認知しているのか」、という論点を視覚障害の人へのインタビューから掘り起こし、視覚障害という状況が「単に見えている状況から視覚情報を差し引いた状態ではない」という事を具体例を挙げて述べた1冊。
まえがきに著者の姿勢が簡潔に述べられており、以下に抜粋します。
『障害者とは、健常者が使っているものを使わず、健常者が使っていないものを使っている人です。障害者の体を知る事で、体の潜在的な可能性まで捉えることができるのではないかと考えています。本書は福祉関係の問題を扱った書物ではなく、あくまで身体論であり、見える人と見えない人との違いを丁寧に確認しようとするものです。とはいえ、障害というフェイズを無視するわけではありません。助けるのではなく違いを面白がることから、障害に対して新しい社会的価値を生み出す事を目指しています』
章立ては「空間」、「感覚」、「運動」、「言葉」、「ユーモア」となっており、それぞれの項目について健常者の側がいかに先入観、固定観念にとらわれているかを実感できる内容です。特に「空間」に関する記述は新鮮でした。具体的には、
1)見える人は視覚情報が2次元的なので、対象物を2次元的にとらえてしまうが、見えない人は最初から3次元的にとらえている
2)見える人は、常に”視点”が必要で、だからこそ”死角”の発生は避けられないが、見えない人は”見ていない”から死角が存在しない
3)表と裏、内と外という感覚に縛られない。盲学校で粘土細工をした時、壷の内側に細かな模様を造作した作品があった
4)”物を探す”という事ができない上に、物の場所を覚えなければならいので必然的に見えない人の部屋は整然と片付いている などなど
また、見えない人への思い込みとして例に挙げられているのは
1)見えない人=点字の読める人=触覚が鋭敏な人 という方程式は成立せず、見えない人の点字識字率は13%程度である
2)だから周囲を認識するために見えない人が”触る”ことに拘っていると思い込んで配慮すると善意が空回りすることがある などです。
「運動」の章ではブラインドサーフィンや自転車競技、ブラインドサッカーなどをどのようにこなしているのか、「言葉」の章では美術鑑賞を例に、”他人の言葉で物を見る”というのはどのようになされるのか、等々興味深い切り口が満載でした。

私自身も本書で指摘されている見えない人への先入観にハッとさせられる点がいくつもありました。本書を基にしたヨシタケシンスケさんの絵本「みえるとかみえないとか」が発刊されています。実は、次女が図書館から借りてきたこの絵本を先に読んで「なるほど!」と腑に落ちたところ、その絵本のネタは本書であることが紹介されていたので読んでみたのです。こちらの絵本もお勧めです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書(社会)
感想投稿日 : 2022年10月19日
読了日 : 2022年10月19日
本棚登録日 : 2022年10月19日

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