死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日

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  • PHP研究所 (2012年11月24日発売)
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福島第一原発のドキュメンタリー。

原発の是非について論じるでなく、まさにその現場で事故に直面した人達がどのように思い、行動したのかに迫った傑作。

これを読むと、事故初期の当直長を中心とした現場の方々の対応で事故の被害がかなり抑えられているとわかる。海外のメディアでは福島フィフティーという名の英雄として報道されたそうだが、悲しいかな、日本にいる私は、こんなにも果敢に事故対応してくれた人達の存在を全く知らなかった。

取り返しのつかない被害をもたらした今回の事故だが、「不幸中の幸い」に助けられた面が多々合ったのだとわかる。

前述の通り、現場の対応は正しかったし、事故の前線基地となる免震重要棟は事故のたった8ヶ月前に完成したそうだ。そして、最後の方で紹介される、吉田氏の生立ちいや人柄を知って、彼がこの事故のある時に福島原発の所長に就いていた事は日本の運命と言っても過言ではないだろう。

事故の当日に若いプラントエンジニア二名が命を落としていた事も今回初めて知った。放射能による影響ではなく、津波に襲われて命を落とし、その遺体は数週間も救出することができなかったそうだ。彼らもまた、放射能の危機から私たちを護るために行動した訳だが、一部では行方不明という情報が逃げ出したという噂に変わって、遺族の方に誹謗があったそうで、酷い話だと思った。

現場といえば、原発のサイトだけが現場ではなく、官邸には官邸の、東電本店には本店の現場が合った訳で、こちらの対応ときたら、情けないとしか言いようが無い。

特筆すべきは元首相の管氏。常軌を逸した態度で、その取巻きは情報をあげることもできなかった。彼へのインタビューも本書には納められている。彼の説明を聞けば、私は彼には彼の理屈としての正しさがあったと思う。しかし、私たちが政治に求めることは結果責任。今は非常事態。話す理屈は間違っていても良いから、現場を掻き回すべきではなしし、命をかけて戦っている人達に、「死ぬ気でやれ」と言い放って、気持ちを萎えさせることがあってはならない。

現場の人達の行動や思いにフォーカスしているわけだが、読者としては、最後には原発の是非について考えが及んでしまうだろう。

私が感じたことは、ここまでモラルと能力の高い現場を日本中の全ての原発に配置できなければ、いつかこれ以上の事故が起こると思わなければいけない、ということ。著者の指摘するように、想定以上の自然災害の可能性やテロの危険を消す事はできない。本を読んでいて、福島原発の人達の現場の能力やモラルは高かったと思うけど、そんな彼らですら10m以上の津波が押し寄せる事を全く考えらられず、なぜ電源が落ちていくのかわからなかった事実は大きい。

最後に、東電に対する不信感は拭えないが、事故当時にそこで果敢にも私たちを護ってくれたのもそこの東電の社員なのだと、そんな当たり前の事を思う。命懸けで戦った方々に、ただただ感謝。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年9月8日
読了日 : 2013年9月8日
本棚登録日 : 2013年9月8日

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