葛飾北斎の娘、葛飾応為の生涯を描いた歴史小説。
朝井まかてさんの小説って近作を読めば読むほどに、名人芸の域に達してるような気がします。葛飾応為のことは全く知らなかったのですが、鮮やかに彼女の生き様が思い浮かんでくる。
天才葛飾北斎を父に持ち、幼いころから絵に親しみ、父の元で腕を磨いてきた応為ことお栄。口うるさい母親、つかみどころのない甥、気まぐれな兄弟子、そして偉大ではあるけれど、人間味のある父の北斎。そうした周りの人々の姿を生き生きと描き、そしてお栄自身の描写もとても生き生きと、それでいて心理は丁寧に描かれる。
父や兄弟子と比べての自分の絵の腕に対する葛藤、絵ではその兄弟子にライバル心を燃やしつつも、一方で想いを寄せる複雑な女心。結婚や女性としての生き方を口が酸っぱくなるほど説教する母に対する反発心。トラブルばかり起こす甥に対する苛立ち。
ちゃきちゃきで歯切れのよい江戸弁の中で描かれる、お栄の心理描写。それはまさに応為の絵の陰影のように小説に光と影の陰影を作ります。
そして様々なトラブルに遭いながらも、芸術に真摯に生きようとする人々の姿も素晴らしい。病気で体が不自由になった北斎に、滝沢馬琴が叱咤激励を言いに来る場面や、お栄の兄弟子の善次郎やその姉妹である芸者の妹たちの姿。
そして父の看病、母の死、甥の借金騒ぎ、火災にあったり想いを寄せた人との別れを経験し、徐々に自分の絵を極めていくお栄。
彼女の気づき、そして自分の生き方を見つける場面の爽やかさは特に素晴らしかった!
読み終えてから画像検索で応為の作品をいくつか見ました。彼女の作品の陰影の裏にあるドラマを勝手ながら想像し、勝手に胸を熱くしました。
第22回中山義秀文学賞
- 感想投稿日 : 2022年1月23日
- 読了日 : 2022年1月21日
- 本棚登録日 : 2022年1月21日
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