若竹七海さんを代表する探偵「葉村晶」が主人公を務める2編と、ノンシリーズの3編が収録されています。シリーズものならではの面白さと、ノンシリーズならではの面白さが感じられるミステリ短編集でした。
最初に収録されている「蠅男」と最後に収録されている「道楽者の金庫」が、葉村晶の登場する作品。
アラフォー、独身、彼氏なし、かつ不幸体質だという葉村晶。葉村晶シリーズを読むのは初めてでしたが、青春ミステリやライトミステリの探偵たちのような、甘酸っぱさや初々しさ、特異なキャラづけとは無縁。
なんとなく地味で、そしてこの年代ならでは……と書いてしまっていいかどうかあれだけど、気怠さというか、めんどくさそうというか、どこか諦観を交えつつ、依頼者や状況に振り回されていく語り口が、なんとも可笑しかった。
事件自体も入りからして珍しい。「蠅男」は母親の遺骨を運んでほしいという依頼。そして「道楽者の金庫」はこけしに隠されている、金庫を開けるカギの話。奇妙な依頼から、予期せぬ展開にキレイに流れ込んでいく。どちらも巧さが光る作品です。
対してのノンシリーズの3編も負けず劣らず技巧が光る。日本推理作家協会賞を受賞した、死刑囚に届いたファンレターの真意を探っていく短編「暗い越流」
行方不明になった雑誌編集長を探す「幸せの家」
教会に立て籠もった男の独白で綴られる「狂酔」
いずれも思いもよらない展開に引っ張られていって、その巧さに思わず唸ってしまう。そして、最後の最後に思わぬところから、ボディに重たい一撃を喰らわせてくるような、後味の悪さを残していくところが、これもまたたまらない……
イヤミス3編を、シリーズもの2編でサンドイッチされているので、最終的な読後感はややマイルドに収まっているのが、個人的に優しい構成だと思いました。
イヤミスの後味の悪さを楽しみつつ、シリーズものの安定した書きっぷりや、乾いたユーモアも楽しみつつ、そしていずれの短編もミステリの技巧にうならされる。若竹七海さんは初読でしたが、この一冊でそうした二面性と、ミステリ作家としての確かな実力を感じました。
第66回日本推理作家協会賞〈短編部門〉
- 感想投稿日 : 2020年12月23日
- 読了日 : 2020年12月19日
- 本棚登録日 : 2020年12月19日
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