あらくれ・新世帯 (岩波文庫 緑 22-7)

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  • 岩波書店 (2021年11月16日発売)
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感想 : 10
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 1915(大正4)年作の「あらくれ」と1908(明治41)年の「新世帯」を収録。
 日本の自然主義文学の代表作とみられているらしい「あらくれ」は、たしか古書店で買った新潮文庫のをかなり昔読んでいて、再読になる。
 確かに味わい深い文章ではあり、何故か読みにくいような面もあって浸りながら読むほかない小説だ。2ページちょっとくらいのごく短い章で区切られているからそのように少しずつ読むのに適しているが、これは新聞に連載された長編だからだろう。
「荒っぽい」性格の主人公の女性「お島」が、貧しくあちこちを遍歴し、いろんな男性とくっついたり離れたりしながら商売に励んでいくというストーリーで、その点は起伏に富んでいるはずなのに、実に淡々と語られていき、おおがかりな山場などは一切無い。序破急も何も無く、延々と「序」のテンポで続いていく。それはまるで退屈な日常が続いていくような寂しさだ。私小説にも近い日本自然主義文学が「大きな物語」を拒絶するのだというなら、こういう語り口になるのかも知れない。やたら遅いテンポで延々と続いていくモートン・フェルドマンのような音楽は私は苦手なので、こういう小説は得意でないかもしれない。
 確かにリアルな感じはするが、川端康成が絶賛するほどの傑作なのだろうか? 延々と淡々とほそい流れが流れてゆくような、静かな小川のようなこの小説光景は、確かに川端文学に共通点がありそうだ。が、小川は良いけれども、あんまりにも延々と続けられて、しかも終わり方も締まりがない(ある意味では普通の人生に似ているのだろうが)この感じを、私は好きになれないように感じる。
 一方、これよりも古い中編くらいの長さの作品「新世帯」の方が、短い中にまとまりを感じ、幾らか起伏もあるようだったのが、私には好ましい。文体の面では「あらくれ」の方が優れているかもしれないけれども。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学
感想投稿日 : 2022年5月14日
読了日 : 2022年5月14日
本棚登録日 : 2022年5月14日

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