2000(平成12)年に単行本として刊行。
山田詠美さんがデビューした頃、高校生だった私は最近の日本文学事情を知ろうと雑誌なども読んでいて、確か山田さんが「文藝」の賞をとってデビューしたのだった。
当時批評家のあいだでは「流行歌のような気安い小説」といった批判があって、私も彼女の作を読んだときはあまり面白くなくも感じた。
今、本作を読んでみると、当時のバブル期のポストモダンが喧伝された時代状況を思い出すようだった。
子供の無い若い夫婦が、それぞれに更に若い相手と不倫するという話なのだが、文体が非常に軽やかで、繊細さも無くも無いけれども、あまり深みを感じさせられない。ここには「苦痛」がないのである。
バブリーなポストモダン期、確かに日本文化の言論界は苦痛に深入りすることなく、あくまでも軽やかさを売りにしようとしていた。山田詠美さんの文章に、そんな時代を感じた。
バブルがはじけ大量の失業者があふれ、貧苦にあえぐ民衆が大量に排出されて、あっけなくバブリーなポストモダンの「軽やかさ」は消えた。そんな苦痛の時代の到来は、たとえば桐野夏生さんの「苦痛の文学」にも顕れていると思う。
しかし今回本作を読んで、山田さんの「軽やかさ」を批判しようとは思わなかった。このような感性もまた、この世にあるべきであって、ラストの方で若い恋人と結局別れてしまうあたりは何となく切なく感じられ、良かった。深刻な苦痛とまではいかないような、皮膚のかすかな痛みのような感じだが、それもまた人生。このように軽やかに生きられたら、きっと人生は楽しいのかもしれない。
悪い作品ではなかった。
- 感想投稿日 : 2023年6月17日
- 読了日 : 2023年6月17日
- 本棚登録日 : 2023年6月17日
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