再読。
所収の作品の発表年はモーパッサンの文筆活動期間である1880年頃からの10年間ということになるだろう。個々に明記はされていない。
この、遙か大昔に読んだ新潮文庫を本棚から出してみたのは、最近注目する永井荷風の特に晩年の作品がモーパッサン流のものだという指摘を目にしたからだ。
どの作品も作者の人間観察に基づき、主に田舎の下層の人びとの生態を点描している。全体にその人間性を皮肉っているようでもあるが、しかし、この文学は「厭世観」とはちょっと違う。絶望のカラーは濃くない。エミール・ゾラのように自らが待望する完膚なきまでの破滅へと突き進む衝動があるわけでもない。悲嘆に落ちる手前で、身を軽やかに転回し、世事を軽妙なオチでくくってサッと飛び去っていくようなイメージがある。
なるほど、モーパッサンの作品が明治以降の日本文学に多大な影響を及ぼしたことは明らかである。
それにしても私の持っているこの本は活字が小さく(今は改版されているようだ)、青柳瑞穂さんといえば昔からずいぶんお世話になった訳者さんだが、本書で駆使される農夫たちの田舎言葉はちょっと分かりにくく、やや古い感じもあった。新訳文庫でもモーパッサンを読み返してみよう。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
文学
- 感想投稿日 : 2022年11月3日
- 読了日 : 2022年11月1日
- 本棚登録日 : 2022年11月1日
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