『罪と罰』ノート (平凡社新書 458)

著者 :
  • 平凡社 (2009年5月16日発売)
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感想 : 12

名作に対し自分の精神を賭して対峙した作品のうち、私が最も感動したものです。今春、名古屋外国語大学の新学長に就任された亀山郁夫先生は、今わが国最高のロシア文学者であることは言うまでもありません。ドストエフスキーの『罪と罰』は、その亀山先生の読書遍歴の起点にある作品です。先生はこの名作に十代の前半で出会いました。先生の精力的な近現代ロシア文学研究、ドストエフスキー翻訳活動の源流は正にここです。亀山先生は、『罪と罰』の読み方は二つあり、「事前の物語として読むか、事後の物語として読むか、で根本から意味は変わる。」(p.134-135)と言っています。十代半ば近くに『罪と罰』を読んだ先生は、「そのリアリティーを全身で受けとめてしまう読者」でした(p.134)。ドストエフスキーの記述をまるで生々しい自分の実体験のように受けとめ、まずその迫力に圧倒されたということなのでしょう。 
本書は、『罪と罰』全6部とエピローグの内容をそれぞれ丁寧に要約しつつ、多面的な自問を提起し、格闘し、血の出るような渾身の自答が開示されて行きます。この名作が、このように細密に読まれたことがかつてあるでしょうか。本書は、こうして私たちを無数のディテールの深層へ導いてくれるのです。小説とこのように向き合ってこそ、人生の中で小説を読んで成長するという体験をもつことができるように思います。おそらく「名外大の学生にこの本だけは読んで欲しい。私の翻訳で」と亀山先生は思っておられますよ。
[塩見図書館長]

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 大学というステージに立って(図書館長推薦図書)
感想投稿日 : 2013年5月10日
本棚登録日 : 2013年5月10日

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