ネゴシエイター: 人質救出への心理戦

  • 柏書房 (2012年6月1日発売)
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・誘拐事件は毎年2万件以上報告されている。
・そのうち当局に通報があるのは十分の一にすぎない。
・世界で起きる誘拐の数は過去12ヶ月で100%増加している。
・誘拐事件の70%は身代金の支払いで解決する。力づくの人質救出はわずか10%。
・拉致の78%は被害者の自宅、または仕事場から200m以内で行われている。
・ほとんどの誘拐がウイークデイの午前中に行われる。
・身代金の要求額の幅は5千ドルから1億ドルまで。
・メキシコでは毎年7千件、コロンビアでは1日10件の誘拐が発生するのに対し起訴3%に対しアメリカでは95%が起訴される。
・世界的に見て被害者の90%が地元の人間である。
・ロンドンでは誘拐対象の保険料が1億3千万ドル以上発生している。
・21 ラテンアメリカで人質救出作戦で無事生還する人質のパーセンテージ

ネゴシエイターと言えばフレデリック・フォーサイス、後は漫画で勇午だが実際の公証人はロイズの代理人として出てきたマスター・キートンのエピソードが一番近い。アクションは無く、偶々運転手に似ていたがために身代金引き渡しをやらざるを得なくなった1件を除けば直接事件には関わっていない。

誘拐保険は1970年代にプロの人質交渉人が生み出したアイデアで保険を引き受けるアンダーライター、保険を仲介するブローカーに加え警備会社が事件の対処に人員を出しアドバイスをする。
911の後元軍人が警備会社を立ち上げ一大成長産業になっていたが、心理学を学び交渉人を目指す作者は保険のオプションとして被害者やその家族の精神的なケアをすると言うアイデアを思いつき警備会社の下請けとして協力を始める。交渉人として犯人の心理を予想するだけでなく、内部で手引きした物の有無、誰が信頼できるかや交渉の仕方をアドバイスするが直接表には出ない。交渉人の存在はアンダーライターにとっては保険額を下げるのがメリットで、保険をかけた側とブローカーにとっては被害者が無事に帰ってくることがメリット。警備会社は他社と差を付けるために精神的なケアと言うアイデアを採用した。

6部構成で拉致ー監禁ー生存証明ー交渉ー身代金の引き渡しー解放と言う事件発生から解決までの流れに沿ってそれぞれ「エンド・ゲーム」、「ビジネス」、「降下地域」、「新しい波」、「不和」、「海賊たち」と言う副題に沿って作者がどうやって交渉人になったかから始まり、様々な実際のエピソードと、並行して仕事の発展と反比例して崩壊する作者の家庭の様子がいずれも生々しく綴られている。

犯人側から見た際には誘拐は金を受け取る時と被害者の解放時が一番危険な瞬間であり、被害者が死傷するのもこの時が多い。作者の仕事は犯人が受け入れられる範囲まで身代金を下げた上で無事に被害者を家に帰すことであり、犯人逮捕は全く考慮していない。犯人側の話を聞かない強硬な交渉は被害者の危険を高める一方で、簡単に要求通り金を支払うのもまた次の犯行のきっかけになる。実際に同じ犯人に3人兄弟が次々誘拐されたエピソードが上げられているが、この家族からはもう金を取れない、手間がかかる割に儲けが少ないと思わせなければいけない。

交渉人は犯人と信頼関係を作り同じ目的を持っているー犯人は無事に身代金を受け取り、被害者は無事に家に帰るーこの共同作業をすると思わせる。テレビや映画の様な強襲作戦は成功せず、救出チームが被害者を殺してしまう例も数多くある。有名な例では2002年のモスクワ劇場占拠事件で突入したスペツナズが使用した麻酔ガスで人質129人が窒息死している。実際の誘拐や立てこもりにはジャック・バウアーは迷惑な存在らしい。犯人が人質を返す理由も人質を殺す誘拐グループと思われたら交渉自体が成り立たなくなるからだ。

「新しい波」に出てくるのは金ではなく政治的な要求をする犯人グループでこれが狂信者ともなると交渉自体が成立しなくなる。テロリストにとっては恐怖を与えることそのものが目的になってきている。また、ATMの発達で日付変更前後に限度額ぎりぎり2日分を引き出す特急誘拐も増えている。ソマリア沖では海賊が船を拿捕するのが産業になってしまっている。誘拐が頻発する地域での自衛手段は警備会社をやとい、誘拐保険に加入することだけだそうだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会
感想投稿日 : 2013年5月15日
読了日 : 2013年5月14日
本棚登録日 : 2013年5月14日

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