死刑 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店 (2013年5月25日発売)
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感想 : 38
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『U相模原に現れた世界の憂鬱な断面』、『A』に続いて森達也の本は3冊目である。
死刑に関しては青木理著『絞首刑』を読んだことから問題意識を持っていたが、本書はそれを深めてくれる良書であった。
「分からない」ところから始めて取材を通して思索を重ねる。その間の揺れ動く気持ちをも書き付けることで思索の旅に読者を引き摺り込むのが森達也の手法だが、本書はそれが存分に発揮されている。
テーマは死刑存廃問題。存置派は被害者の応報感情を、廃止派は論理的矛盾を主張するが、これはいわば感情と論理の戦いであり、交わることはない。森達也はそれを止揚して「殺したくない」「救いたい」という「本能」を結論とする。
しかし、思う。存置派の応報感情も同根ではないか。被害者は犯人を殺したいと思うが、手をかけるのは本能的に抵抗がある。ゆえに被害者に代わって国が死刑を執行する。つまり人を殺めることへの本能的忌避感から、被害者は存置、第三者は廃止と主張するというのが死刑存廃問題の構造ではないか。
ここまで考えてくると、死刑制度の核にあるのは被害者の応報感情であることが分かる。つまり、制度の核に感情を置くという歪さが問題の本質なのだ。
釈尊は「いかなる動物なら殺しても良いか」との弟子からの問いに「殺す心を殺せば良いのだ」と答えた。この言葉は詭弁でも逃避でもない。「いかなる犯罪者なら殺しても良いのか」と問われても同じことを言ったに違いない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2023年6月10日
読了日 : 2023年6月10日
本棚登録日 : 2023年6月10日

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