まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫 み 36-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2009年1月9日発売)
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まるで、長いようでいて、あっという間の旅、ロードムービーを味わった感覚になりました。

主人公は、便利屋を営む多田。職を失い住むところもなくした行天。ひょんなことから再会した高校時代の同級生2人に、次々と舞い込む仕事は、

母親の見舞いの代理、ペットの預かり、庭と納屋の掃除、塾の迎え、身辺警護に、身辺整理の依頼等々。便利屋と聞いて想像できる内容から、かなり刺激的なものまであって、2人は、依頼を受けるなか、過去の自身の傷に、嫌がおうなく向き合っていくストーリー。

ぶっきらぼうで内省的な多田。
よくしゃべるのに心のうちを明かさない自分も他人もどうでもいい素振りを見せる行天。

2人の掛け合いは、所々笑いを誘う軽快さもありつつ、愛情を与えてもらえない小学生や、明日をも知れぬ暮らしぶりの夜の世界を生きる娼婦との出会いから、反社会的な物騒な世界に巻き込まれて…。

愛情とは何か、血をよりどころとせず、つながった家族の幸せとは。希望とは。切り離された過去の傷は、罪悪感から赦されるのか。

「傷はふさがっているでしょ。たしかに小指だけいつも他よりちょっと冷たいけど、こすっていればじきにぬくもってくる。すべてが元通りとはいかなくても、修復することができる」という行天

「幸福は再生する」と心につぶやく多田

2人の言葉に全てが込められている気がしました。

多田と行天、一見ハードボイルドなのに、やわらかく強い輝きや優しさを胸の奥底に秘めた2人の魅力が光る素敵な作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年1月22日
読了日 : 2023年1月22日
本棚登録日 : 2023年1月5日

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