天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-12)

著者 :
  • 早川書房 (2010年3月5日発売)
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〉これほどまでに異常な状況下では、自分たち個々の思考やモチベーションなど維持したいとも思わなかった。患者は何千人という数なのだ。その生死は疫学的推計によりすでに決まっているようなものだ。必要以上に努力したところで、回復率を1パーセントでも押し上げることはできはしない。──医師が1個の部品になることが必要なレベルの、これは途方もない事態であり、圭伍もそれを受け入れていた。


謎の疫病発生との報に、国立感染症研究所の児玉圭伍と矢来華奈子はミクロネシアのリゾートアイランドへ向かう。
そこで目にしたのは、肌が赤くただれ目の周りに黒斑をもつリゾート客たちが、そこかしこに倒れ伏す惨状。
冥王斑と名付けられることになるその病気は、致死率95%、空気感染し、回復後も感染能を保持する──つまり一度感染したら死ぬまで隔離が必要となるという恐ろしい物だった。
やがてパンデミックへ拡大していくなかで、人類は防疫という武器をもって必死の戦いを続ける…という話。

私のオールタイムベスト作品のひとつ。今こそ全世界の人に読んでほしい、パンデミック物の金字塔、天冥の標Ⅱ救世群です。

世界中で次々に起こるアウトブレイクに立ち向かう人々の姿が緊張感あふれる筆致で語られます。人類が英知を結集するような熱い展開が好きなんです。
そして並行して、感染後に生き残った「回復者」たちの続く隔離生活と、彼らの受ける苛烈な差別が描かれます。
「どうか、人間を恨むことのないように」
「無理です」
このやりとりが今後800年に及ぶ恨みの物語への端緒に…。


今こそ読んでほしいので今こそ再読。
現実世界でのCOVID-19に関連した差別は、なんと医療関係者に向けられているという報道もありますが…。防疫とは、パンデミックとは、ウイルスと戦うとはどういうことか。今の世界を理解する手掛かりになる小説です。

書店では特別全面帯で「防疫は、差別ではない」と黒地白文字のインパクト大で展開されています。大長編の第2話なのですが大丈夫。独立した一冊ですので気軽に手に取ってください。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国内SF
感想投稿日 : 2020年4月18日
読了日 : -
本棚登録日 : 2020年4月18日

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