岩波新書がプロレスを扱うというのは意外だったが、『悪役レスラーは笑う』は何か面白そうだぞという期待はあった。刊行と同時に購入していたにもかかわらず、読まずにいた。しかし最近の打ち続く雨のために電車通勤を余儀なくされ、それを機に読み始めた。いやあ、まいった。これは会心のドキュメンタリーではないか! グレート東郷の出自をめぐって、やれ中国系だいや韓国だと、情報は錯綜する。日本のプロレス界の実は立役者でありながら、その男の生年も出自もなぞに満ちているなんて、なんと言うか、おおらかな時代だったんだと思う。今ではありえないことではないか。それはまさに、筆者の言うとおり、あいまいな領域を残すプロレスに似て、一種のロマンともなりうるわけだ。 筆者の森達也のていねいで執拗な取材も好感が持てる。 読んでいる途中で気づいたのだが、森達也は自主制作映画『A』『A2』をつくった人ではないか! 偶然いがいの何ものでもないが、僕はこの映画を数日前に見たばっかりだったのだ。これらのドキュメンタリー映画についてはいろいろ語りたいことは多いのだが、たしかに森達也という人の人間を見つめる眼には何か共通するこだわりを感じる。それは何だろう。「自分なりに理解したい・自分なりに把握したい・自分なりに納得したい」こう思うことは良くあるが、あきらめようとするときの自己納得にも似たようなその感覚・・・とでも言おうか。ともかく、この本はまぎれもなくおもしろい。テレビ放送黎明期のプロレスの位置づけについてもイメージが湧いた。森達也は注目だ。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
保健体育
- 感想投稿日 : 2013年5月27日
- 読了日 : 2013年5月27日
- 本棚登録日 : 2013年5月27日
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